SankeiBiz for mobile

絶望的事故が「進化」生んだ LEGO BIG MORL

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

絶望的事故が「進化」生んだ LEGO BIG MORL

更新

4人組のバンド、LEGO_BIG_MORL(提供写真)  昨年2月。4人組のはずが、ぎこちない風情で3人だけステージに立っていた。演奏後にあいさつに行ったところ、前日の夜、リハーサルを終えて帰宅途中だったギタリスト、タナカヒロキが交通事故に遭い、けがをしてライブができない状態だ、という報告を受けた。事故から丸1日もたっていない生々しく重苦しい楽屋の空気感を今でもはっきりと覚えている。その後のバンド活動やタナカの復帰の見通しなど、その時は全くわからなかった。

 数カ月がたち、手の手術を終えリハビリをしているという話は聞いていたが、いつ復帰できるのか、以前と同じようにギターを弾くことができるのか、長く気をもんでいた。

 タナカ本人は「そもそも事故直後は手の様子も、もちろんバンド活動の見通しも、何もわからない状態でした。リハビリもどれだけのスピードで回復するのか、担当医も予想できませんでした」と振り返る。

 事故前に決まっていたツアーは残された3人で回った。そして音楽制作も、これまでは4人でスタジオに入って音を合わせながら曲を作っていたが、メンバー個々の作業をつなぎ合わせるように作ることを余儀なくされた。

 各々が新たな挑戦

 しかし、「単純に事故から復帰しただけではなく、次のステップに進んでいる姿を見せたいと思った」というベースのヤマモトの言葉通り、この時期の制作活動がバンドの音楽的な進化につながった。新たなことを試したかったというヤマモトが、今までにないサウンドや楽曲の構成を試し、それにつられるようにカナタがメロディーやギターのアレンジを紡ぎだす。アサカワはたたいたことのないドラムパターンを試した。

 新作は、以前よりもギターが主張している曲が少ない印象だが、タナカは「曲が良ければそれでいいんです」と答える。「音でなんとか隙間を埋めようとしていましたが、今は音の引き算をしても曲がしっかりしている」とカナタは言う。それはむしろ「クールでメロディアス」「テクニカルだがひけらかさない」といった彼らが持つ本来の個性が鮮やかに発揮され、グルーブのあるロックをより引き立てている。

 バンド活動的には絶望的な時期を、成長や進化のタイミングに変えようと奮闘した4人の強い意志が結実した作品だ。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS

 ■ふじた・たくみ 1976年、東京都生まれ。ラジオ、テレビの音楽番組を中心に活動する傍ら、年間150本ほどライブに通う。現場主義の視点で音楽を紹介し続けている。

ランキング