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【中塚翠涛 ココロのかたち】アートの力 浄化され、無心になれる心地よさ
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「創-sou」(96センチ×133センチ)。抽象表現主義の巨匠たちからインスピレーションをいただき、幾何学図形と色で仕上げました(中塚翠涛さん提供) 皆さま、こんにちは。毎日少しずつ日が短くなり、秋も深まってまいりました。朝夕の冷たい空気を感じると全身が清らかな気分になります。
この季節独特の、静謐な空気を胸いっぱいに吸うと、思い出す場所があります。その場所を訪れる前と後では、私が制作するときの心構えに変化があらわれました。
そこで受けた衝撃と、懐かしさにも似た不思議な感覚は今も体内に残り、とても大切な場所になりました。
数年前、ニューヨークを訪れた際、仕事の合間にヒューストン(テキサス州)に行ってきました。お友達には「NASAで仕事?」と驚かれましたが、残念ながらいまだに国家レベルのお仕事はさせていただいていません…(笑)。
以前から行ってみたかった美術館「メニル・コレクション」に足を運びました。この美術館は、メニル財団が所有する現代美術の作品を展示していて、建物はイタリアの著名建築家、レンゾ・ピアノが設計しています。ちなみに、ピアノはパリのポンピドーセンターや、日本の関西国際空港を手がけたことで知られています。
私が楽しみにしていたのは、敷地内にある、同じくピアノが設計したサイ・トゥオンブリーというアメリカ人画家のギャラリー。線描を主とした彼の作品は、まるで子供の落書きのよう。単純な線の中にリズムや奥行きを感じ、おしゃれな余白の取り方に感激しました。
さらに訪問の最大の目的はロスコ・チャペル!! チャペル内部の壁面には、ジャクソン・ポロックと並びアメリカを代表する抽象表現主義の画家、マーク・ロスコの巨大な抽象画が飾られ、さまざまな宗教を超えて、祈りをささげたり、瞑想したりする場になっています。私が訪れた日は床でヨガをする人や、ただふらりと入ってきて、すーっと出ていく観光客、子供を連れて散歩を楽しむご近所の方々と出会いました。
私自身は、建物に入った瞬間、何ともいえない感覚に包まれました。一瞬にして浄化され、全身の垢が洗い落とされるような不思議な心地よさでした。
壁にかけられた絵は濃い紫色にも見え、茶色にも見え…。日中は自然光が取り入れられ、お天気や時間帯によって色に変化が生まれます。私には心の中がそのまま映し出されるようにも感じました。
半日ほどそこから動けず、立っては壁の絵を見つめ、座っては眺めるうちに、どんどん無心になっていきました。
帰国後、このチャペルについて改めて調べたら、ロスコはフランスの画家、アンリ・マティスが南仏のヴァンスに作った礼拝堂「ロザリオ礼拝堂」に影響を受けたということを知りました。
そうすると、行ってみたいと思うのは当然! 昨年、念願かないヴァンスを訪れたのですが、外観も雰囲気も全く違い、どの部分に影響を受けたのかと思いながら扉を開け、足を踏み入れると、ロスコ・チャペルと同じ空気が流れていたのです。
ステンドグラスの光と、マティスの線描に囲まれると、同じように浄化され無心になっていく自分を感じました。
書の作品でも、大きくて迫力があるものもいいと思いますが、私自身は柔らかい線の中に力強さを発し、太い線や運筆に勢いがあっても繊細さを表現する作品にひかれます。ロザリオ礼拝堂のマティスの線描にはまさにそれを感じました。
ロスコ・チャペルとロザリオ礼拝堂での体験後、日本での慌ただしい日常生活の中で、目をつぶると、そこに流れていた空気がよみがえります。すると平穏な状態で作品に取り組め、自分の内にある想いに真っすぐ向き合えるように思います。
これまであちこちの美術館を訪れ、絵画、建築と沢山の巨匠たちの作品を見てきました。見るたびに、到底及ばないと思います。それでも、その時、その場所でしか感じ取れなかった“何か”が今も私の中にずっと漂い続けていて、作品を作るときに、何かしらの影響を与えられていることを確信しています。それが時を超えた、巨匠たちのパワー、アートの力なのですね。
自分が見て、聴いて、感じたこと。知識や経験。それがどんなふうに作品に出てくるのか、私自身、とても楽しみです。
それとともに、私らしさをどう表現していくのか、日々学んでいきたいと思います。(書家 中塚翠涛(なかつか・すいとう)/SANKEI EXPRESS)
東京都内で開催中の「TOKYO DESIGNERS WEEK 2014」の「北斎漫画インスパイア展」に、中塚翠涛さんの作品が展示されています。葛飾北斎の「北斎漫画」にインスパイアされたさまざまなジャンルの50人のクリエーターが作品を制作したものです。
<日時>~2014年11月3日(月・祝)、午前11時から午後9時(最終日は午後8時まで)。<会場>明治神宮外苑絵画館前。<入場料>3000円。学割、親子割あり。