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不気味なのに魅力的な主人公たち 「ティム・バートンの世界 ようこそ、奇才の頭の中へ」

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不気味なのに魅力的な主人公たち 「ティム・バートンの世界 ようこそ、奇才の頭の中へ」

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「ブルーガールとワイン」(ティム・バートン、1997年頃)。71.1x55.9cm、油彩・キャンバス(提供写真)  【アートクルーズ】

 「シザーハンズ」(1990年)や「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」(93年)など人気映画を次々世に送り出してきたティム・バートン監督。その創作活動を紹介するアジア初の展覧会「ティム・バートンの世界 ようこそ、奇才の頭の中へ」が、森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木)で開かれている。映画の背景に膨大なイマジネーションと習作があふれていることに驚かされる展覧会だ。

 スケッチなど土台に

 「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年)にこんなシーンがある。幼いアリスが、笑う猫や青いイモムシが話す不思議な夢を見て目を覚ます。父親に「私おかしくなったの?」と問いかけると、父親は「そのようだね」。でもその後で「お前は、変わった、おかしな子だ。でも優れている人は、みなおかしいんだ」と答え、アリスに笑顔が戻る。

 主人公アリスは、バートンその人だといえるだろう。バートンは幼いころから人になじめず、一人で空想にふけったり、授業中も絵を描いていたりするような“おかしな子”だった。

 何かインスピレーションがわくと絵に描きとめるという習慣は、大人になっても続いてきた。展覧会のセクション「アラウンド・ザ・ワールド」には、スケッチブックやホテルのメモ用紙、紙ナプキンに描かれた、おびただしいスケッチやドローイングが展示されている。

 撮影中の旅先で見かけた女性を描いても、それは単なる写生ではなく、バートンが対象から感じ取ったイメージや自分の心を反映した「作品」になっている。約50年描いてきたスケッチやデッサンが、映像の確かさや豊かさの土台になっていることを改めて知る。

 バートンは、ディズニー兄弟が創設したカリフォルニア芸術大を卒業し、1979年、ディズニー・スタジオにアニメーターとして雇われる。しかしこの5年間は、何一つ採用されない不遇の時代だった。セクション「実現しなかったプロジェクト」では、バートンが「10年分ぐらいの創造的なアイデアを何から何まで出し尽くした」と振り返るドローイングなどが公開されている。

 はみ出し者に脚光

 主に美しくて愛らしいキャラクターを主人公に、ハッピーエンドの物語を発信していた30年前のディズニーでは、滑稽さや恐怖、グロテスクさを併せ持つバートン作品を採用できなかった事情もうなずける。ただ、不遇の中で描いたモチーフのいくつかは、後の映画で花開いた。

 確かに、人を怖がらせることに飽き飽きし、クリスマスを演出して失敗する「ナイトメアー」のジャック・スケリントン、愛犬の死を受け入れられず、生き返らせる実験に手を染める「フランケンウィニー」(2012年)のヴィクター、ハサミの手が人を傷つけ、危険な化け物として追われる「シザーハンズ」のエドワードなど、バートン作品の主人公たちは暗さと悩みを持つ。

 セクション「誤解されがちなアウトサイダー」では、善意の持ち主でありながら、現実とかけ離れた世界観を持ち、周囲の人々に拒絶されて孤立してしまう「はみ出し者」の主人公を取り上げている。展覧会キュレーターのジェニー・ヒーさんは、「良い意図を持ちながら、その結果は惨憺(さんたん)たるものになるというテーマは、一貫している。主人公たちは、創造力を持って、既存の世界に反逆する」と指摘する。

 美しくも格好よくもないが、善意あふれる主人公が、とんでもないトラブルに巻き込まれる。だからこそ、バートンの映画は、私たちに身近な魅力を持ち、引きつけるのだろう。(原圭介/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「ティム・バートンの世界」(フジテレビなど主催) 2015年1月4日まで、森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木6の10の1六本木ヒルズ森タワー52階)。一般1800円。会期中無休。(電)0570・063・050。

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