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【にほんのものづくり物語】登別温泉 熊笹
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登別温泉の熊笹=北海道登別市(提供写真) ≪伝統に培われた技を新しい発想に生かすと「ものづくり」の可能性が広がる≫
豊かな自然、美味しい食材が人々を魅了しやまない北海道。都会の人々に大いなる感動を与える大自然も、その土地で暮らす人々にとっては当たり前の日常となるのでしょう。そして、故郷を遠く離れて初めてその価値に気付くことも多いようです。
今回は地元で古くから親しまれる熊笹の効果を中心に、温泉やさまざまな特産品を通じて、新しい地域の魅力を形にして発信している坂井昭一さんを、北海道登別温泉に訪ねました。
湧出量1日1万トン。江戸時代に開湯し、今も「日本の温泉」人気ランキング上位に常にランクインする登別温泉。登別の語源はアイヌ語の「ヌブルベッ=白く濁った川・色の濃い川」、温泉街を流れるクリサンベツ川は「薬(温泉水)が流れ下る川」という意味から名付けられました。古くから川の色が変わるほど湯量が豊富であったことが偲(しの)ばれます。
明治時代に道路が整備されると多くの湯治客が集まるようになり、温泉地は次第に拡大し、現在の一大観光地の礎が築かれていきました。湯治客が集まるところには土産物が付き物。1914(大正3)年に産物を扱う大黒屋民芸店を始めたのが坂井さんのおじい様です。甘いものが貴重な時代に作られた「湯乃香ひょうたん飴(あめ)」は、土産物として人気を集め、今も素朴な味わいが愛されています。
当時、温泉の効果とともに地元の人々に知られていたのが付近に自生するえぞ熊笹(別名:根曲り竹、学名:チシマザサ)の薬効でした。山菜としても人気のある根曲り竹は孟宗竹よりも古くから北海道以北に自生する大型の笹。大きな葉は幅5センチ、長さ20センチほどにもなります。近隣に生息する熊は大量の笹を食べて栄養を蓄え冬眠に入り、目覚めると英気を取り戻すためにまた笹を食べたといわれます。緑の血液ともいわれ「熊笹」と呼ばれるのもそのためです。地元では笹団子やちまきを包むために使ったり、お茶として常用していました。
坂井さんは大黒屋民芸店の3代目として、熊笹の効果を広めるための商品開発・販売に取り組む「北海道熊笹本舗」を立ち上げました。今でこそ「地域の豊かな素材、資源を多くの人と分かち合うことを目指す!」という大きな志があるけれど、大学進学を機に故郷を離れるまでは、自分の生まれ育った地域の特性に気付くこともなかったそうです。東京に出て驚いたのは、身体を縮めなければ入れないお風呂、ボーリングで掘削して出る温泉、孟宗竹と熊笹の筍の違い…。当たり前のように身近にあった自然、川に流れ出る熱い温泉、風味豊かな山の幸の味覚。外から見て初めて、どんなに恵まれた環境に育ったかを知ることになったのです。就職した食品会社でのノウハウは、札幌への転勤を経て、登別へUターンを決めた時に役立ちました。
熊笹は繊維質やタンパク質、葉緑素(クロロフィル)に富み、最近では笹多糖体というものにも注目が集まっています。美容と健康にも効果的と言われる熊笹をたくさんの人に知ってもらうため、坂井さんはお茶、飴、そば、竹炭など、10種類以上の熊笹商品を販売をしています。化粧品にも応用できるのでは?という奥様のアドバイスから生まれたのが、美容液のフェイシャルマスク。熊笹に加えて、坂井さんが以前参加したプロジェクトの経験を生かし、破棄するカニの甲羅から得られるキトサンも配合。さらに登別の豊かな温泉を取り入れて、登別観光協会が提唱する9つの泉質をアピールするOV9(温泉バリエーション9)の個性的なパッケージが生まれました。
笹=緑のイメージを覆す真っ黒なマスクは、インパクトある存在として観光客の視線を集めています。地域素材の活用、美容健康への効果、自然環境への貢献など、夢が凝縮されて形になったようです。
日本各地にあるさまざまな素材、その土地への愛情が生み出すコラボレーション。日本のものづくりはそんな思いに支えられながら、新たな可能性を広げていくのかもしれません。(SANKEI EXPRESS)
問い合わせ先:北海道熊笹本舗有限会社 大黒屋民芸店
〒059-0551 北海道登別市登別温泉町60 (電)0143・84・3314