小川清一さん(以下小川) 単なる正義感。あとは人間性だね(笑)。もし行政が支援をしようということになっても、生鮮品とか、温かい物を食べたいだろうという発想は出てこない。でも民間はそういうことができるから、地域活動のNPOをやっている。
天童 人間性かぁ。いや僕は、人はなぜ人を救おうとするのかということに関心がすごくあるんです。貧富や貴賎の差が是認され、争いや暴力が絶えないこの世界がなんとかここまでやってこられているのは、人が人を救おうという行動をとっているからで。
小川 まさにそういう気持ちでやっている。人も大事だけど、地域を救おう。そういうことが、人のためといいつつ、自分のためになっていく。そういうのがあって、町おこしだったり、社会的弱者の自立支援とか、高齢者の居場所作りをやってきた。災害支援もその中の一つ。
天童 でも誰にでもできるわけではない。誰かを救おうなんて、気持ちのない人はもちろん、あっても普通動けない。小川さんができてしまうのは、個人的な生育環境、育ちもあるのでしょうか?
小川 それはあるかもしれないなあ。うちはね、兄貴も元町長で、親も議員やなんややっていた。何が正しいのか、肌で感じて育ってる。ゴミ処理場がなかったとき、自分の土地に生ゴミを受け入れたりね。
他人の欲かなえたい欲求
天童 震災の支援でいえば、杉戸町は負担ではなかったのでしょうか。公的施設を避難所に提供したり、生活上の不都合もあったと思いますが、町民の感情面など率直なところを…。
豊島亮介さん(以下豊島) こういうのって、「他人の欲をかなえたい」という欲求の一つで、奉仕ではない。だから、負担と天秤にかけることではないと思うんです。町民も団結したし、震災や防災に興味持つ人が増えた。行政も避難所の運営というノウハウが持てましたし、いい効果が生まれた。
天童 巨大災害が起きたとき同時に被災しないだろう遠隔地に逃げ場所を持っておくということは、お互いにとって精神的なゆとりとなるでしょうね。田舎というバックボーンを持てなかったり縁が切れてたりして、万一のときの避難先がない、自給自足できない、そういう不安が、無意識のうちに都市に住む人々をいらだたせている面があると思うんです。今回のような取り組みは人々の精神のあり方にも好影響を与える気がしますが、今後広げていきたいという思いはありますか。
豊島 杉戸町は首都圏から30キロと近く、地盤もしっかりしてる。畑もあるから自給自足もできる。そういう場所が後方支援自治体として名乗りを上げる。
今回、全国のNPOと結んで訓練を開催しましたが、すべてをこちらでコントロールするのは難しい。こういう集まりが増えていって、「うちは医療に特化します」とかできればいいなと。そういう場所をたくさんつくれば、首都圏直下型地震が起きたときに役に立てる。
天童 いろんな人や場所とつながってみて、実際のところどうですか。
小川 やっぱり、人間だから、いい人も悪い人もいるけど。そんな中で、先日もあるイベントで助けた人がお茶菓子持ってお礼に来てくれてね。ささやかなことだけど、やってよかったと思う。1年に何回か、あったかい気持ちになることがある。何物にも代え難い。マスターベーションかもしれない。でも、そういうことしていかないと、生きてる価値ないじゃない。(取材・構成:塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)