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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(9-8) 対談を終えて 「つながる」ことは「備える」こと

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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】(9-8) 対談を終えて 「つながる」ことは「備える」こと

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震災直後、この大きな釜で自慢の「かっぱ汁」を被災者にふるまった。日頃の備えが災害時にいきた=2014年11月4日、埼玉県北葛飾郡杉戸町(塩塚夢撮影)  東日本大震災により、「つながる」という言葉が生まれました。この連載は震災で教育の機会を失った子供たちに関わる活動をしている2人の若者との対話から始まりました。最終回となる今回、「すぎと~」と「埼玉~」という2つの団体のリーダーにお会いしたいと思ったのは、震災から生まれた「つながり」が、今どういうかたちに発展しているのか、どういう風に人々に受け止められているのかを見られればと思ったからです。

 「人の笑顔が好き」

 日本は、災害を免れない国です。天災だけでなく、少子高齢化が招く人的被害、エボラ出血熱に象徴される新型ウイルスなどさまざまな脅威に直面している。そんな中、「つながる」ことは「備える」ことになるのではないかという考えが芽生えてきました。今回お会いしたみなさんは、まさにそれを具体的な形で実現させた取り組みをされている。ぜひお会いしたいと思いました。

 また、その舞台となったのは、杉戸町という小さな町です。これからの日本にとても必要とされることを、小さな町がやっている。そこにも希望への鍵が隠されているようで、魅力を感じました。

 小川(清一)さん、松尾(道夫)さん、豊島(亮介)さんとお会いして思ったのは、シンプルに「3人とも人が好きなんだな」ということ。「人の笑顔が」かな。きっとたくさんの笑顔に出会ってきて、それが糧になってるんじゃないでしょうか。小川さんは生い立ちの中で、親の世代の正義感を強く感じて育ってきましたし、奇しくも松尾さんもそうだった。地域の人と関わり、困ってる人を助けてその笑顔を見るのが好き。そして、次の世代を担う豊島さんはそんなオヤジ世代の2人の姿勢がすごく好き。よき連鎖が生まれています。

 「なぜ人は人を救うのか」という問いに対して、小川さんも松尾さんも、明確な答えを持っていなかった。それは「こういうことがあったから」といったストーリーを必要としていないからで、「人が困っていたら手をさしのべるのが当たり前」という非常にシンプルな動機で動いている。本能的とも言ってもいい力強さを感じました。

 実は、最初、この訓練の話を聞いたとき、「杉戸町で大丈夫なのかな?」と思った。埼玉の一部の災害に対応するのでなく首都圏直下型地震の救援拠点としてですからね。アクセスがいいわけでは決してないし、キャパシティーにも限りがある。誰もが認める「ここ」という場所ではない。

 しかし、実際に杉戸町を訪れて今思うのは、「ここでもできるなら、どこでもできる」ということ。もっと便利な場所は他にもあるかもしれない。でも、彼らは「やろう、やれる、受け入れる」と動いた結果、経験値を手に入れた。その経験値というのは、他のどんな条件よりも強いものだと思います。多くの人が知らないところで、将来にわたって人々の笑顔を守るために「まずやってみよう」と確かな信念を持って動いた実践家たちが、杉戸町だけでない、他のあらゆる地域に希望のモデルをもたらしている。

 それを実現させたのは、リーダーの存在です。小川さん、松尾さんはもちろん、避難の受け入れを決めた町長だったり、NPOを活かそうと決めた知事だったり。誰かを助けたいと思っている人はたくさんいます。でもどうしたらいいかわからない、ためらいもある、だからこそ次の一歩を踏み出させるための決断を下す人が必要なんだと強く思いました。

 現代社会は、世界的にも苦い経験を多く重ねてきて「リーダー」という存在に危うさやうさんくささを感じている。だからこそ民主主義が世界で支持されているのだけれど、どうしても危機のときには民主主義の限界が露呈してしまう。短時間で事を決断するリーダーが要る。なので危機のときに、間違えるリーダーを選んではいけない。われわれに足りないのは、近い将来必ず訪れる複数の危機に対応できるリーダーを選ぶこと、いなければ求めたり育てたりすることへの強い意志や、切実感なのかもしれません。(作家 天童荒太 談/取材・構成:塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS

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