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ゆったりと肉を味わう大人フレンチ ビストロヤナギハラ
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発酵キャベツと豚の煮込み料理のシュークルートガルニ(2580円)は自家製ソーセージに豚のタン、ベーコン、豚もも肉の塩漬けがふんだんに盛られていてボリュームもたっぷり=2014年12月1日、京都市中京区(志儀駒貴撮影)
京都の肉系フレンチとして有名な「ビストロヤナギハラ」。河原町通に面しているにも関わらず、昔ながらのウナギの寝床の民家を改造した店は思わず見過ごしてしまいそうなほどひっそりとしたたたずまい。大きなガラス扉を開くと左横に大きなワインセラーがしつらえられ、店内のあちこちにある子ぶたの置物が出迎えてくれる。テーブル席10席、カウンター2席のこぢんまりした家庭的な雰囲気も魅力的だ。
「私自身、肉好きなので、メーンはほぼ肉系でそろえています。一皿でお二人が分けられるように、ポーションは若干大きめ。かなりおなかいっぱいになりますよ」とシェフの柳原秀雄さん。
例えば前菜でおなじみの「田舎風お肉のパテ」。オリーブやピクルスを彩りよく添えているが、パテは2センチを超えるほどの厚みがあり、その大きさに驚かされる。ほどよい塩味とピリッとしたスパイス使い、そしてねっとりとしたパテの味わいは、思わずワインをお願いしたくなるほどだ。
フレンチの郷土料理といえば「シュークルートガルニ」だろう。ドイツ料理にもなじみ深い発酵キャベツと豚肉の煮込み料理だが、自家製ソーセージに豚のタン(舌)、ベーコン、豚もも肉の塩漬けをふんだんに盛り付け、ボリュームもたっぷり。ブイヨンでじっくり煮込み、肉の味わいを引き出している。
「フレンチによくあるバターやクリームはオープン以来使わないようにしています。ソースは赤ワインを煮詰めたり、ブイヨンで作っているのがこだわりです。どれだけお肉を食べても次の日に胃がもたれず、ちゃんとおなかがすくんですよ」と柳原シェフは笑う。
メーンにふさわしい赤身の肉の味が存分に味わえる「短角牛のステーキ」。取材で伺った日はカイノミの部分が使われている。一口ほおばれば肉らしい野性的な味わいと軟らかさ、かむほどに口の中に甘味が存分に広がる。
カイノミはバラ肉の一部でヒレ肉の近くにある脇腹のあたりに位置し、貝のような形をしているのでそう呼ばれているという。1頭の牛から左右一対のブロックしか取れない希少部分。部位にこだわるあたり、焼き肉店並みといえるが、実はここにもシェフのこだわりが。
「メジャーじゃない部位でも、きちんと肉のおいしさが味わえることを多くの人に知ってもらいたくて。フランスではおなかの内側にあるバラのあたりの肉もバベットステーキといって普段から食べられています。いわゆる霜降り肉とは違って量はたっぷりありますが、食後感は軽いんです」と柳原シェフはいう。
取材中、気付いたのは、お皿を飾る彩り的な存在である香草がないこと。理由を問うてみれば、アイスクリームに添えられているミントの葉が嫌いだから、だそう。一緒にいただくことでおいしさが倍増するなら添えるらしいが、飾るためだけなら省いてしまおう、ということらしい。何とも合理的な考えのシェフだ。
そんなシェフを支えるのは奥様であるマダムの麻佐美さん。店内のサーブとソムリエを一手に引き受けている。
調理場近くに設けた2席の小さなカウンター席は、お一人様でもフレンチを楽しみたい人向け。もちろん料理も1人用のハーフポーションコースが用意されている。通常、ビストロに多いのは女性客だが、ヤナギハラはフレンチの郷土料理である肉料理が存分に味わえるとあって男性客が多いのもうなずける。残念ながら未成年は入店禁止。しっとりとした会話と料理を楽しめる成熟した大人ならではのビストロといえるだろう。(文:木村郁子/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)
※価格はすべて税込みです。