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こだわりの湯豆腐で身も心も温まる 八千代
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身も心も温めてくれる名物の湯豆腐。この味を目当てに国内外から多くの観光客が訪れる=2014年12月1日、京都市左京区(志儀駒貴撮影)
紅葉の名所、京都・南禅寺にほど近い料理旅館と庭園レストラン「八千代」は、湯豆腐と京料理の名店として国内外の観光客が四季を通じて大勢訪れる。特に冬場には、厳選した大豆から作られた軟らかい豆腐を口にすると、身も心もほっこりと温まる。東山を借景にした庭園にはモミジや松、サザンカなどが植えられ、季節の移ろいを感じながら京料理の数々を味わう至福のひとときは、訪れる私たちを虜にしてくれそうだ。
八千代の起源は安土桃山時代に遡(さかのぼ)る。当時は魚市場を営んでおり、天正16(1588)年に豊臣秀吉から盛宴の用命を受けたと記録が残る。第二次世界大戦で魚市場は消滅したが、戦後まもないころに南禅寺の地で料理旅館を営むようになった。「首相を務めた吉田茂ら政財界の要人にも親しまれた」(おかみの中西裕子さん)という。
庭師、小川治兵衛が手がけた日本庭園は、東山を借景に四季折々の表情を見せてくれる。
向付(むこうづけ)は「鯛の昆布締めスダチ挟み」。兵庫県明石産の鯛を一口サイズに5層に重ね、その間に輪切りにしたスダチを挟み込んでいる。もっちりとした鯛の身とスダチを一緒に口に含むと、スダチの酸味がさっぱりとした後味。
肉料理は2品が柚子の実をくりぬいた器に盛られて登場する。その一つはワケギを芯にしゃぶしゃぶ風の牛肉を巻きミツバで結んだユニークなメニュー。軟らかい牛肉とワケギのシャキシャキ感が食感の“二重奏”を楽しませてくれる。もう一品は「牛肉の鍬焼き」。サイコロ状の宮崎産牛に片栗粉をつけて焼き、日本酒としょうゆとみりんで味をつけた和にこだわった濃い味付けの肉料理だ。
煮物椀は「甘鯛のカブラ蒸し」。京野菜の聖護院カブラをすりおろし、卵黄やユリ根を混ぜてグジ(若狭湾の甘鯛)とともに蒸し上げた。梅の形にしたニンジンやシイタケ、キクナがあしらいとして添えられ味を引き立てる。ワサビのピリリとした刺激もアクセントとして心地よい。
「炭焼き風の焼き魚」は、脂が乗った旬の鰆(サワラ)の杉板焼き。しょうゆやみりんに漬け込んで焼いた鰆を2枚の杉の板で挟み込み、炭火であぶりながらいただくとほんのり木の香りが漂う。白みそを塗って焼く海老芋の田楽や、クチナシで鮮やかな黄色に染め鈴の形にしたクワイもこのメニューの名脇役をこなす。
名物の湯豆腐は滋賀県産のこだわった大豆で作られた豆腐を使用。4~5センチ角の豆腐8切れが一人前だ。京都の湧き水でつくられた豆腐は、「絹ごしともめんの間ぐらいのほどよい軟らかさ」(本道敏行・総料理長)が持ち味。淡泊な豆腐をしょうゆとみりんベースのだしにつけ、ネギ、ノリ、ショウガやカツオブシを絡めて口に含むと、薬味それぞれの味わいが渾然一体となって美味を奏で、つい箸が進む。自慢のだしは「卵かけご飯にかけても美味しい」(本道さん)そうで販売もしている。
ぐつぐつと煮た「すっぽん鍋」も八千代の一押し。養殖沼で3年間育てたすっぽんをさばいて湯通しし、日本酒と水でコトコトと3時間炊いた後、一晩寝かしてしょうゆと塩で味付けしたすっぽんの身を熱々で味わう。鍋の中では焼麩と焼きネギが一緒に煮られ、味の変化を楽しませてくれる。
八千代は江戸時代の国文学者で「雨月物語」の著者でもある上田秋成が晩年になって隠棲し余生を楽しんだ旧跡とされる。中西さんは「料理を楽しみながら日本の文化や伝統にふれてもらえたら」と話した。(文:巽尚之/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)