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年越しそばと除夜の鐘 大和田潔

 クリニックのある東京の下町、神田には、多くのお蕎麦(そば)屋さんがあります。歴史ある「かんだやぶそば」は、とても有名です。蕎麦屋の周りに竹藪(やぶ)があったところから「やぶそば」と呼ばれるようになったとのことです。

 外から拝見しても緑の中に溶け込むように関東大震災後に建てられた木造の家屋があり、時代を超えた独特の雰囲気を醸し出していました。2013年2月に火災が起きましたが、14年10月から無事営業が再開されています。

 千代田区観光協会の「神田年越し蕎麦」ウェブサイトでは、その他の名店が紹介されています。

 昨年このコラムでお書きしたのですが、ソバは、一年草のタデ科の植物です。タデ科の植物は、イネ科と同様に穀物として世界中で利用されています。タデ科の植物には藍(あい)染めのあいや便秘の漢方薬の大黄も含まれていて、私たちの生活に密接に関わってきた植物です。

 ソバは栄養価が高く、タンパク質が豊富に含まれる上にオレイン酸やリノール酸という不飽和脂肪酸も多く含みます。ビタミン類やポリフェノール類も豊富で、風邪をひきがちな冬の体力維持には良い食物です。

 一年草なので、種から芽を出し、枯れるというサイクルを毎年繰り返します。9月ごろから北海道などで刈り取りが始まり、刈り取りラインが日本列島を南下していきます。その年に収穫されたばかりの「新そば」は香り高いものですが、少し落ち着いた年末のものの方がおいしいとおっしゃる方もいらっしゃいます。

 栄養価が高く雑穀とされていたソバは、禅寺をはじめとする寺の修行僧にとって大事な栄養源でもありました。東京では調布の深大寺蕎麦がよく知られていますが、年末に各地の寺蕎麦と呼ばれるものが登場します。出雲大社の近くでいただいたそばも懐かしく思い出されます。

 縁起物の海老の天ぷらをのせた年越しそばを味わいながら、さまざまなことがあった1年を振り返るのも良いものです。年越しそばは年内に食べきることが良いとされています。きちんと食べ終わってから、来年に思いを馳(は)せつつ除夜の鐘に耳を傾けることにしましょう。(秋葉原クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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