SankeiBiz for mobile

【「日本の食」未来へつなぐ】(8-3) 山の恵み生かし 多様性引き継ぐ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

【「日本の食」未来へつなぐ】(8-3) 山の恵み生かし 多様性引き継ぐ

更新

土田高史さん(左)と辻了(さとる)さん(右)と山椒(さんしょう)を手にする松田美智子さん。「この山椒がなくなったら困る。いつまでも作り続けてくださいね」とエールを送る=2014年2月11日、和歌山県(長谷川みず穂さん撮影)  石臼で挽く人もいれば、山椒(さんしょう)を育てる人もいる。和歌山県紀美野町で農園を営む宇城哲志さん(40)。多品目の野菜を育て、かねいちにも山椒を出荷している。自作の農産物をいかそうと開いたジェラテリア「キミノーカ」には、山中の集落にもかかわらず、年間3、4万人が訪れるそうだ。

 自作農産物でジェラート

 紀美野町出身の宇城さんだが、「和歌山はつまらん」と地元を飛び出した。金融・証券マンとして全国を転々としたが、「どこの町も変わらんなあ」と思うようになった。「今はネットも発達して、どこに住んでも手に入るものは一緒ですしね。だったら、同じ質の生活をしようとしたとき、地元の方がランニングコストが低いなと思うようになった」

 2008年に退社し、農業を営んでいた実家へ戻った。「農作物の需要が一番心配だった。これからの時代は自宅で料理することも減っていくでしょう。ジェラテリアを開いたのも、まずはお客さんに畑を見てほしかったから。山椒を見て感動して、野菜に関心を持ってもらいたかった。いったん外に出たことで、畑の美しさだったり、生産するだけの場所ではない価値を客観視することができた」

 棚田が残る集落だが、20年後には人口が約半分になると予測されている。「地方が都市にマッチしない人の受け皿となる時代になると思う。そんなとき、『地方の幸せ』がなくなっていては子供たちのためにならない。私にも3人子供がいますが、彼らのためにも、この土地での人の営みを続け、未来に選択の多様性をちゃんと引き継ぐことが私たちの世代の役割だと思っています」

 木をすりこぎに

 山椒は味だけではなく、調理道具としても食を支えている。実を結ぶという役目を終えた山椒の木は、干してすりこぎに。「山椒の木は皮がごつごつしているので、ぬめりのあるものもしっかり捕らえてくれるんです」と松田さん。

 有田川町の「かんじゃ山椒園」では、山椒のつくだ煮などの加工品から、すりこぎまでを製造・販売している。代表の永岡冬樹さん(57)も金属加工業などを経て地元に戻ったUターン組。「和歌山のぶどう山椒の生産量は日本一。ぶどう山椒は日本オリジナルのものですから、和歌山の生産量は世界一ということになります。世界一のものがこの山の中にあったことに気づいた」

 現在、山椒はベルギーなどにも個人輸出している。山椒料理を味わうカフェもオープンし、近畿圏から若者が立ち寄る人気スポットにもなってきた。「山村を守りたい。太古の昔から人が住んできた場所です。人が豊かに生きられる。そのためには山の恵みをいかし、生業として成り立たせないと」

 一粒の山椒の実には、さまざまな人の思いが込められていた。(取材・構成:塩塚夢/撮影:写真家 長谷川みず穂/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■山本勝之助商店 和歌山県海南市阪井679 (電)0120・965・905 オンラインストア(kisyu-sansyoya.com)で商品購入可能

 ■キミノーカ 本店 和歌山県海草郡紀美野町三尾川785の3 (電)073・495・2910

 ■かんじゃ山椒園 和歌山県有田郡有田川町宮川129 (電)0737・25・1315 オンラインストア(www.sansyou-en.com)で商品購入可能

ランキング