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【パリの中庭】モノと向き合う

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【パリの中庭】モノと向き合う

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上質な阿波和三盆糖を使用した鈴懸のお干菓子「tatamize(タタミゼ)」1080円(税込み)=2015年1月5日(提供写真)  「現代における環境やニーズの変化はモノ作りを困難にしている」という言葉は、いまや常套(じょうとう)句のようだ。しかし私は、安易に用いることに疑問を感じる。状況は異なれども先人たちの時代にも困難は存在していたからだ。たとえば現代では、アイデアのヒントを膨大な情報の中から検索できるようになった。しかし100年ほど前までそうした情報は大変貴重であった。この困難を乗り越えるため、先人たちは自然を見つめ、自己を突き詰めている。要する時間は長く、一生は短かった。だからこそ創作に人生が写り込んだ。これが、“モノ作り”が“モノを生む”ための英知であるゆえんだろう。時代は変われども、そうした行為にわれわれが倦(う)んではならない。いつの時代も困難を突破した先に新たな地平が見えるという事実に変わりはなく、むしろ現代は人類史上最もモノを作りやすい時代であるとも言えるのだ。

 「望む」と「応える」

 一方で、最初の言葉を“現代におけるモノ作りは危機的状態にある”と解釈するならば大いに共感できる。モノと情報のあふれる現代という環境にあぐらをかけば、早晩モノ作りはダメになる。

 私はこれまでも、この問題の本質が人と人の関係性のゆがみにあると語ってきた。そもそもモノは無からは生まれない。そこには人の欲求がある。つまり技術や品は“応える側”として、“望む側”を魅了し初めて肯定されるのだ。この両者の関係性は大変に興味深い。“望む側”の意向をそのまま取り入れれば、評価が高まる一方で新しいモノを次から次に求められ、結果技術に溺れ本質を見失うことがある。しかし“応える側”が、良かれという気持ちから高度な技術を施し過ぎれば、味わいの濃すぎるものとなり“望む側”にアンコミュニケーション(消化不良)がおきる。特に現代はこれらの傾向が強い。だからこそ今回は、この一品をご紹介したい。

 本質の意を感じて

 福岡の地で九十余年の歴史を持つ「鈴懸」のお干菓子「tatamize(タタミゼ)」を初めて手にしたとき、「こういった品もあるのだ」と驚いた。むろん私も、落雁や金平糖といったお干菓子は何度も口にしている。しかし、鈴懸が作る品は素材の魅力を最大限に伝えられるよう、味と形状のバランスが絶妙だ。Tatamizeとは、フランス語で「日本趣味」を意味し、上質な阿波和三盆糖を使用している。徹底した技が施されているが、形状がシンプルであり作為は感じられない。

 そのため、口に運ぶまでに余計なことを考えずに済む。味を感じるころには、職人の技の深さと自然の豊かさが“応える側”の意思として広がる。そして、われわれが“望む側”として望むモノを提供された喜びを知るのだ。私は、自分の中で無意識に定義づけられていた“お干菓子とはこういったもの”という概念を良い意味で裏切られた。これは、良き品に出合う中でしばしばある体験だ。そしてこの“裏切り”により本質と向き合う機会を得ることができる。それは、われわれが歴史的積み重ねに触れるコトであり、日本の美意識を感じる瞬間でもある。

 鈴懸は長い歴史を有するが、とはいっても何百年もの歴史を持つという和菓子屋ではない。しかし、その品には何百年もの間継承されてきた日本の美意識と技術の継承を感じることができる。こうしてつながっていく存在全てに言えることは、品質そのものに必要とされるだけの価値があるということだ。

 しかし、それは安易な営みの中で培われるものではない。営みの充実を徹底するという心構えがあって培われるものだ。関係する全ての人々が、細部にいたるまで徹底し“モノを生む”ためのモノ作りに取り組むということがどれほど大切であるか、鈴懸の品は本質という言葉の意を如実に感じさせてくれる。“自然の甘み”を手に入れるという、この上なくぜいたくで美しい行為とともに。(企画プロデュース会社「丸若屋」代表 丸若裕俊(まるわか・ひろとし)/SANKEI EXPRESS

 ■まるわか・ひろとし 「丸若屋」(maru-waka.com)代表。日本とフランスを拠点に、伝統工芸から最先端工業に至る幅広い分野で最高峰の技術との革新的な取り組みを通し、21世紀を生きる人々の生活に驚きと喜びの提供を行う。パリ・サンジェルマンにて、美しき日本の品々の展示販売を行う“NAKANIWA”をオープン。2016年に創業400年を迎える有田焼の海外プロジェクトも2014年に始動。

 ■鈴懸 創業九十余年の和菓子屋。初代は「現代の名工」に賞された中岡三郎。九州、博多の風土に豊かに育まれ、厳選した自然素材のみに由来する味と技を極める。

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