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【にほんのものづくり物語】弘前りんご

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【にほんのものづくり物語】弘前りんご

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岩木山を背景に広がる美しいリンゴ畑=青森県弘前市(提供写真)  ≪伝統に培われた技を新しい発想に生かすと「ものづくり」の可能性が広がる≫

 岩木山を背景に広がる美しいリンゴ畑。1877年に栽培が始まり、日本一の生産量を誇る弘前りんご。厳しくも豊かな自然環境のもとで栽培されたその果実は、青果として出荷されるだけではなく、最近では「リンゴ丸ごと商品化-リンゴゼロエミッション-」という6次産業化にむけて、地域ぐるみの取り組みが始まっています。

 今回は、逆境を転機に変え「すべての物語は美味(おい)しいリンゴから」をキャッチフレーズに、チャレンジを続ける、田村昌司(しょうじ)さんを弘前市に訪ねました。

 最近では大きさや甘み、色合いなどさまざまな種類が市場をにぎわしているリンゴ。全国の生産ランキング1位は青森県で、2位の長野県とダブルスコア以上の差を付け50%以上のシェアを誇ります。中でも弘前市は市町村レベルでトップを独走中です。

 今でこそ青森りんごは一大ブランドですが、25年前、田村さんが大手青果市場でリンゴの営業を担当していた当時は、バイヤーから「青森県産よりも長野産の方がおいしい」と言われたといいます。首都圏への輸送距離が短く完熟に近い状態で取引される長野産に比べ「日持ち」を求められる青森産は青いうちに出荷せざるを得なかったからです。その言葉が引き金となり「完熟したおいしい青森りんごを出荷し、流通を変えよう!」と、田村さんが転身を決意したのは1989年のこと。後継者不足で引き受け手のない畑を譲り受け、周りのリンゴ農家にノウハウを教わりながら、タムラファームを立ち上げました。鶏糞、魚粕、骨粉など天然ミネラルをたくさん含み、熟成させた自家製の有機肥料。リンゴの実にしっかり日光が当たるよう考えた贅沢(ぜいたく)な植樹空間。そして、完熟する少し手前のもっともおいしくなる時期を見計らった収穫。故郷への熱い思いを抱きつつ、栽培方法を確立し、おいしい完熟リンゴが私たちの手元に届くようになりました。

 しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。91年9月、日本列島に甚大な被害を与えた台風19号がやってきます。青森では収穫前のリンゴがほとんど樹から落ち、倒木・枝折れなどの被害に遭いました。そのままでは出荷できない落下果実。田村さんは流通業にいたノウハウと人脈を生かし、いち早く加工品へのルートを確保します。「リンゴ台風」とも呼ばれたこの台風で転業した農家も多かったのですが、県内外からの支援も多く、加工品や収穫時期の調整など新たな展開にもつながりました。

 十数種の品種を栽培する中で、田村さんの一番のこだわりは「紅玉」。玉が小さく収穫量も少ないため、農家が敬遠しがちな紅玉ですが、程よい酸味が特長で「口に入れて、おししい、のど元でも、おいしい」と、凝縮された味がお菓子に一番適しているそうです。ジュース、ジャムに加え、2011年から始めた奥様の手作りアップルパイが好評。畑が忙しい夏場は畑に、手のすく冬場はお菓子作りにと、地元女性たちの手も借りながらの味わいが人気を呼んでいます。

 また、本格的なリンゴのスパークリングワイン「シードル」の販売も開始。参加した研修会で縁あって出合った、丹波ワインのワイナリーが製造元。「どうせつくるなら世界に通用するシードルを!」と意気投合したそうです。そして、最新の話題は化粧品。「トキ」の品種の蒸留水をたっぷり含んだ香り高い美容マスクがいよいよ発売になります。リンゴの香りは爽やかで気持ちをリラックスさせてくれる効果もあり、食品以外のお客さまがタムラファームブランドに興味を持つきっかけとなればと期待は膨らみます。

 逆境こそがチャンス。人とのつながりを糧に自分の道を切り拓(ひら)き、故郷を活性かさせていく機動力。枠にとらわれない柔軟な発想が、日本の農業に新しい魅力を生み出していくようです。(SANKEI EXPRESS

 ■田村昌司(しょうじ) タムラファーム株式会社 代表取締役。1981年明治学院大学卒業後、弘果・弘前中央青果(株)に入社。リンゴの販売促進、リンゴ加工食品の開発販売を担当。1989年「おいしいリンゴ」の流通を目指しタムラファームを起業。1995年自社リンゴのスーパーへの直送納品を開始。新鮮なリンゴとともに、自らのノウハウを生かして作ったジュース、ジャム、アップルパイ、シードル(リンゴ発泡酒)などの商品は、タムラファームブランドとして人気を集めている。

 【ガイド】

問い合わせ先:タムラファーム株式会社 〒036-8246 青森県弘前市青樹町18の28

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