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トンネル抜けて美食に出会う 魚ではない「すし」の正体は 花咲 錦店
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砕いた餅を衣にしたエビの天ぷらは歯ごたえサクサク=2015年1月6日、京都市中京区(志儀駒貴撮影)
買い物客でにぎわう京の台所、錦市場や大丸、高島屋などの至近に立地する京料理の館、「花咲 錦店」。玄関に誘う神秘的なトンネルをくぐると、そこは異次元のグルメの世界。生麩(なまふ)や湯豆腐、一風変わったすしでもてなされる会席料理は、訪れる旅人に京都テイストを堪能させてくれるはず。冬の庭にはサザンカの赤い花も咲き、心安らぐひとときを演出してくれる。
つい通り過ぎてしまいそうな「花咲」の看板を目印に、玄関への導入部に足を踏み入れると、そこはまるでトンネルになった真っ暗な小道。数歩歩いて玄関の扉を開くと周辺のにぎわいが嘘のように静かな和食空間が広がっている。
「湯豆腐会席」のトップバッターは生麩の田楽。2種類ありゴマ麩には白みそ、ヨモギ麩には赤みそが塗られケシの実がふられている。串を持って一気に口の中に入れるともっちりした弾力にみその味が絡みつく。
ほかにはワサビを添えていただく生湯葉や、壬生菜(みぶな)と干し貝柱、エノキのおひたしなどが“脇役”を務める。おひたしは「うまみが引き立つ干し貝柱を戻してエノキなどと炊く」(手嶋豊秀料理長)というだけに、貝柱のおいしいエキスが凝縮されている。
おつくりは鯛とヨコワが皿に盛られる。ヨコワとはマグロの幼魚で脂が乗った鯛もヨコワもちょうど食べ頃。生麩のおつくりも一緒に提供され、ワサビを多めに溶いたしょうゆにつけて口に含むとツンと鼻をつく刺激が心地よい。雪の結晶の形に切り取られた大根と金時ニンジンも添えられ、見た目も楽しめる。
次に、高さ約15センチの木箱が登場。これぞ一人用の湯豆腐セットだ。燃料に火をつけるとぐつぐつと音を立てて煮え始め、沸き立つ湯気が食欲をそそる。木製の蓋を取るとステンレスの鍋の中に絹ごし豆腐が沈む。一緒に熱せられている壺に入った出汁(だし)を小鉢に移し、すくい取った豆腐を出汁に浸して味わうと、とろけそうに軟らかい。
出汁はカツオをベースにしょうゆとみりんを調合したというだけに、初めは薬味を入れずに出汁だけでも風味は満点。その次に薬味のゴマやショウガを添えて味わうと、3通りの味の変化が楽しめる。柚子の風味が香る豆腐もまた格別の味わいで、「一人前で1丁弱の分量がある」(手嶋料理長)そうだ。
六角形の器に載った「エビのかけらもち揚げ」は、砕いた餅を衣にして揚げた天ぷら。白絞油(しらしめゆ)で3分程度揚げたというエビはカラッとした食感。ヨモギ麩と粟麩の揚げ物も添えられ、抹茶塩をつけると上品な味わいだ。
ご飯ものとして長い器に盛られたのは握りずし4貫。ところが、握りのネタは魚介ではなく漬け物だ。「観光客の方は『何?これ』と驚かれます」(手嶋料理長)という通り、意表を突く。ネタの“正体”は、柚子の香りがする大根▽和歌山産のナス▽ノリで巻いた日野菜▽シャキシャキとした歯応えの白菜-だ。
酢飯には京都・長岡京産米を用い、酢の配合にもこだわった“アイデアにぎり”は薄味で箸が進む。一緒に提供される汁物椀には、サバで取った出汁に麩で作られた麺が浮かぶ。通常の麺に比べると、少しもっちりとした食感があるように思えたが、麺好きはきっとファンになりそうだ。
デザートはリンゴのムースと抹茶アイス、イチゴとメロンで、会席料理を締めくくる。ムースは青森県産のリンゴをすりおろしゼラチン、卵白で固めた立方体で提供されるが、その甘みは絶品だ。女性客が多いそうだが、手嶋料理長は「料理にも小さなアイデアを積み重ね、もう一度来てもらえる店づくりに努めたい」と笑った。(文:巽尚之/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS)