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書庫活用 「衣食住プラス知」提案 la kagu
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≪雑貨、衣料品にカフェ、レクチャースペース≫
出版大手、新潮社が東京・神楽坂に持つ未使用の書庫を活用した新しい商業施設「la kagu(ラカグ)」が人気を集めている。神楽坂在住のフランス人が、この地をそう呼ぶことから名付けられたというラカグには雑貨から食料品、衣料品まで幅広い商品が並び、カフェも併設。ブックスペースやレクチャースペースといった「知」の空間を備え、大人のためのおしゃれな美術館といった趣だ。
東京メトロ・東西線、神楽坂駅の矢来町側の出口を出ると、日の光が乱反射してまぶしい、ガラス張りの巨大な“箱”がすぐに目に飛び込んできた。坂の上の小高い場所にあり、歩道から入り口までウッドデッキの導入路が続き、どこか荘厳な雰囲気を醸し出していた。設計したのは建築家、隈研吾(くま・けんご)氏(60)が主宰する隈研吾建築都市設計事務所だ。
ラカグは、衣食住の個性的なブランドの企画・販売を手がけるサザビーリーグ(東京都渋谷区)が、新潮社(新宿区)とパートナーシップを組んでオープンしたセレクトショップだ。当世風にいえば、「キュレーションストア」というらしい。コンテンツをテーマに応じ取捨選択し展示する作業が、美術館のキュレーターの仕事に似ているところから、そう呼ばれている。
サザビーリーグで企画・広報などを担当する前田亮介プロジェクトマネージャー(40)はラカグの出発点について、「建物自体はもともと昭和40年代に建てられた新潮社の書庫で、本の在庫が保管されていました。20年ほど前に新潮社が他の場所に新しい物流センターを設けたため、この書庫はほとんど使われないままとなっていました。駅の目の前といういい立地にあるのに、それではもったいない。何かに活用できないだろうかと企画されたのが、ラカグでした」と説明してくれた。
入り口を抜けると、装飾的要素を最低限にとどめたシンプルかつ奥行きのあるゆったりとした空間が広がっていた。総面積は約960平方メートル。天井や壁面は鉄骨の骨組みがむき出しで、背丈の高い本棚には色とりどりの各種商品が愛らしく陳列されていた。確かにかつて本の書庫だった面影を残している。入り口のすぐ左手にあるカフェを取り巻くように、和食器、生活雑貨、毛皮コートなどの女性向けファッションといった展示スペースが配されていた。
2階には書籍、輸入家具などが配置され、100人収容のレクチャースペースがあり、これまで小説家のよしもとばなな氏(50)や人気プロレスラー、棚橋弘至(ひろし)氏(38)=新日本プロレス=らのトークショーが行われた。
ラカグのコンセプトは、「リバリュー」と「衣食住プラス知」。「リバリュー」とは、昔からごく当たり前のようにあった既存のものを大事にして、そこに新たな価値を与えていくことだという。そもそも、ラカグ自体が書庫のリバリューといえる。
築40年以上の書庫の姿を残しつつ、お店を作ろうと提案したのは、設計を担った隈氏だった。「隈さんは『だましだまし』という言葉をよく使います。その意図するところは、新しいピカピカの建物を作るのもいいけれど、その場所の歴史を生かすやり方もいいのではないか、ということです」と、前田プロジェクトマネージャーは言う。
新春企画として、「和」をテーマに1階入り口付近で開催されている「和の食卓」も、リバリューを具体化したものだ。画家の安田奈緒子氏がアンティークの和食器にシルバーの絵付けを施したシリーズを展示していた。それほど値段の高くないビンテージを買い集め、新しい命を吹き込んだ。
もちろんファッションスペースにあるのは新品ばかりだが、ずっと長きにわたって着られるようなベーシックでスタンダードなものを集めており、流行の最先端をいく商品は扱わないという独自の美学がある。
2つ目のコンセプト「衣食住プラス知」は文字通り、ライフスタイルの提案に知性を加えた世界観を作ろうというものだ。それは日本の活字文化の一翼を担ってきた新潮社とのパートナーシップを意識した取り組みだという。例えば、2階の壁面には、本棚に並ぶ本を写した巨大な写真が掲示されている。またレディースファッションのコーナーでは陳列商品の間に、さりげなく本が置かれている。「ファッション関連の本ではなく、この売り場にいらっしゃる女性たちの嗜好(しこう)や世界観をイメージして集めた小説やエッセーです」と前田プロジェクトマネージャー。
ラカグは、ライフスタイルにとどまらず、考え方や生き方について考えるきっかけを与えてくれる不思議な空間だ。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS)
※価格はすべて税込みです。