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【エディターズEye】きちんとした食材
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土田高史さん(左)と辻了(さとる)さん(右)と山椒(さんしょう)を手にする松田美智子さん。「この山椒がなくなったら困る。いつまでも作り続けてくださいね」とエールを送る=2014年2月11日、和歌山県(長谷川みず穂さん撮影) 料理研究家、松田美智子さん(59)から著作「調味料の効能と料理法」(誠文堂新光社)が職場に届いたのは、昨年春だった。ページをめくると、調味料の効能や使い方の工夫が鮮やかな写真とともに細やかに説明されており、添えられていた手紙から長年SANKEI EXPRESSをご愛読いただいていることも知った。著作について取材した記事は昨年9月18日付「大人の時間」に掲載した。
その取材のとき、松田さんから「かねいち」の山椒(さんしょう)をいただいた。封を開けた瞬間、鮮烈な香りが鼻先に飛び込んできた。ほんのひとつまみ加えるだけで、煮物、焼き魚をはじめ、料理がぐんと引き立つ。くせになってしまう調味料だった。
松田さんは「この山椒は大粒の実を職人さんが手間をかけてより分け、石臼で丁寧にひいて作っている。こういう『きちんとした食材』が長い歴史のなかで受け継がれてきたから、いまの日本料理があるのだと思います」と話す。健康で自然と調和したイメージから日本料理は世界の人々に好まれるようになり、「和食:日本人の伝統的な食文化」としてユネスコの無形文化遺産に登録された。JTBによれば、日本を訪れる外国旅行者は今年、初めて1500万人に届く見通しで、日本料理への注目はさらに高まるだろう。
そんなときだからこそ、日本料理の基本的な味を支えている調味料の作り手を松田さんの案内で訪ねてみることにした。取り上げたのは、和歌山県の山椒と三重県の塩。どちらも古来のシンプルな手法で、ひたすら丁寧に調味料を作っている。値段は少し高めでも、緩やかながら料理人やパティシエなどに支持が広がっていることも特徴だ。「食材の良さをわかって買う人がいないと、職人たちは作り続けることができない。後継者も育たない」と松田さんは指摘する。良いものを作り続けるために必要な経済環境を整えることは、もの作りをする人たちにとって、常に大きな課題だ。
今年は、昨年末の衆院選を経て政権基盤を固めた安倍晋三政権の下、日本経済の活性化に期待が膨らむ。その過程では、ひとりひとりが何を守り、何を始めるかが問われるはずだ。それを考えるときに、「きちんとした食材」を作り続けるひとたちの姿が参考になれば幸いだ。(タブロイド版日刊紙「SANKEI EXPRESS)」編集長 佐野領)