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日比谷にレビューを取り戻したい 舞台「SHOW-ism VIII『∞/ユイット』」脚本・演出 小林香さんインタビュー
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「日比谷にレビューを取り戻したい」と話す、演出家の小林香(かおり)さん=2015年1月6日、東京都渋谷区(藤沢志穂子撮影) ミュージカルにダンスの要素も盛り込んだ人気シリーズ「SHOW-ism(ショーイズム)」の8作目「∞/ユイット」が、2月1日から東京・日比谷シアタークリエで上演される。井上芳雄と蘭寿とむを主演に迎え、パリの不思議なホテルに集まる訳ありな人々を描くレビュー仕立てのファンタジー。2010年の初回から脚本・演出を手がける小林香(37)は、かつて日本劇場(日劇)が一世を風靡(ふうび)した「日比谷にレビューを取り戻したい」と意気込む。
今回の「SHOW-ism VIII『∞/ユイット』」には、ほか蘭寿と同じ宝塚歌劇団出身の彩吹真央、エンターテインメント集団シルク・ドゥ・ソレイユでクラウン(道化師)を演じていたフィリップ・エマールらが参加。4人のダンサーも加わり、ストーリー性のあるレビューとしての要素が濃くなっている。
「ユイット」は舞台となるホテルの名前で、フランス語で「8」と「無限大」との2つの意味。物語の重要なキーワードで、作品には往年のフランス映画の雰囲気も漂う。
レビューは音楽やダンスに社会風刺も加えた大衆娯楽として、欧米で19世紀から20世紀にかけて普及した。日本でも日劇が一世を風靡、現在シアタークリエのある日比谷周辺からさまざまなレビューが発信されていた。小林は「歌とダンスとビジュアルで物語としての統一性を作る、総合芸術としての粋を集めたもの。遠い目標だけれど、時間をかけて日比谷に取り戻したい」と話す。
小林は宝塚OGの魅力を引き出すことに定評があり、蘭寿ほか出身者との仕事が多い。コンサートの構成・演出やアーティストへの詞の提供も手がけ、一昨年は井上と浦井健治、山崎育三郎の若手ミュージカル俳優3人によるユニット「StarS」の日本武道館公演を成功させた。今回は「フィリップさんなど、力のある異なったジャンルの方々と掛け合わせで、蘭寿さんや井上さんの新しい魅力を引き出せたら」。
華やかな舞台を目指す一方で、見る人の心に何かを伝えることも心がける。今回は東日本大震災を思わせるシーン「思われ木の葉」がある。写真が好きで仲のいい4人家族を天災が襲い、息子の青年(井上)だけが生き残る。途方に暮れる青年を亡き家族(蘭寿ほか)がそばで見守り、立ち直った青年は再びカメラを持って写真を撮る。舞台では木の葉のように写真が舞い落ちる。
震災を思わせるシーンを入れるのは、『SHOW-ism』2作目の稽古中に震災が起きたことに遡(さかのぼ)る。この作品ではニューヨークの地下鉄で停電が起き、居合わせたアーティストたちが暗闇の中で自然に歌を歌い、乗客たちが励まし合うシーンがある。震災前に書かれていた内容だが震災後の被災者の姿とも重なる。公演では「生きていてよかった」といった、実際に被災した観客からの感謝の声も寄せられた。
「最近はイルミネーションが派手になり、あれだけ騒がれた節電はどこかへ行ってしまった。いろんな現実があるはずなのに、目に入れたくないものになっている気がする。いまだからこそ思い出す必要があると考えた」と話す。
「SHOW-ism」は毎回、チケットがほぼ完売になる人気ぶり。「開催50回が目標」と意気込む小林の原点は、6歳で見たチャールズ・チャプリンの映画「街の灯」。「子供にも分かるエンターテインメントで芸術性と社会性がある。お客さまの半歩、先を行く、世界がちょっとずつハッピーになれる作品を作っていきたい」と笑った。(藤沢志穂子、写真も/SANKEI EXPRESS)
2月1~15日 東京・日比谷シアタークリエ。<問い合わせ>東宝テレザーブ
(電)03・3201・7777