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農作物への生物混入は「問題ない」 大和田潔

 私たちは胃酸で多くのものを殺菌し、腸管免疫が体への不適切な異物の混入を瀬戸際でブロックしながら生活しています。清潔すぎると余剰になった免疫系が暴走し、花粉症などのアレルギー疾患を発症させるとも言われています。ある程度「不潔」な食事のほうが、私たちの体には適切なのかもしれません。

 農林水産・食品産業技術振興協会(公益社団法人)は「知らずに食べている食品混入昆虫」というウェブサイトで、食物に通常の農作物に一緒に暮らしている虫が混入するのはいたし方がないことだと説明しています。虫を駆除したり防カビ、殺菌のために農薬を増したり薬剤で燻蒸(くんじょう)するのは薬品の健康被害からかえって害になると指摘しています。

 『沈黙の春』(レイチェル・カーソン著、新潮文庫)という有名な本があります。DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)をはじめとする農薬が人間を安全にしているように見えるものの、害虫を食べる鳥もいなくなり食物連鎖が破壊された沈黙がやってくるという話です。殺虫剤や枯れ葉剤による発がん性や催奇形性は、社会的な大きな問題となり続けています。

 私たちは、貝の内外の小さなカニやゴカイ、魚やイカのアニサキス(寄生虫)によく遭遇します。チリメンジャコの中の「異物」である水棲(すいせい)生物は「ちりめんモンスター」と呼ばれ、子供たちに人気です。私は一流レストランのロールキャベツの葉脈に隠れて煮込まれていた青虫に遭遇したことがあります。モンシロチョウが舞う「沈黙していない」畑の様子を思い浮かべほほ笑ましく感じました。気がついてそっとよけたのですが、青虫を食べていたとしても問題なかったでしょう。

 不適切な養殖によるヒラメのクドア・セプテンプンクタータや、漬物への寄生虫卵や有毒細菌の混入は非難されるべきですが、通常の農作物や魚介類に付着する昆虫や水棲生物は問題ありません。こういったものは、問題ない「食品への異物混入」だと認識すべきです。ちょっとビックリしても、料理を交換してもらうだけで十分。自然から生き物の命をいただくことの意味や、食物で経済活動を行う倫理を考える良い機会ではないかと思います。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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