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【にほんのものづくり物語】与論島「塩」
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与論島(鹿児島県大島郡与論町)の塩(提供写真) ≪伝統に培われた技を新しい発想に生かすと「ものづくり」の可能性が広がる≫
世界の塩の生産量の3分の2は岩塩だそうです。岩塩は遠い昔、地殻変動で陸地に閉じ込められた海水が長い年月をかけて結晶したもの。岩塩の資源がない日本では、昔から塩は海水から得られるものがほとんどでした。塩の専売制度が実施されていた時代は、その種類も多くはありませんでしたが、最近では「日本の塩100選」もあるほど、豊富な種類の塩が店頭に並んでいます。
その中から今回は、岩塩と同様、太古の時を経た海洋深層水から作られる塩を求め、鹿児島県与論島に玄保成さんを訪ねました。
青く澄み渡る海、美しいサンゴ礁は南の島の生態系を守り、隆起した岩礁が独特の景観を生み出している与論島。ゆっくりと流れていく時間の中で、岩礁のくぼみにたまった海水は日差しを浴び、濃度を増していきます。地元の人々は昔からその濃縮された海水を煮詰め、自家製みそやしょうゆをつくるように、自家製の塩を作っていました。
海水から塩を作る場合、雨が少なく乾燥した土地では、海水を塩田に引き込み、太陽熱と風で水分を蒸発させて塩の結晶を得る天日製塩の方法がとられます。しかし、多雨多湿の日本では天日製造は難しく、海水を一旦濃縮し、それを煮つめるという2段階方式の平釜製法が用いられてきました。1905年、産業としての基盤づくりと財政収入確保から、国は塩の専売制度を実施し、これは97年まで続きました。日本中で皆が同じ「食塩」を使ってきた時代を経て、現在では、ご当地の名前を冠したさまざまな美味(おい)しい塩が手に入るようになったのです。
コミック誌の人気漫画にも取り上げられた「玄さんの塩」もそのひとつ。登場人物の一人が「もっと早く出合いたかった」と大絶賛しています。その美味しさの秘密は、沖合約30キロの海域から取水される海洋深層水から平釜製法で作られていること。濃縮に逆浸透膜を用い不要なものを取り除き、平釜にかけることで表面をにがりがコーティングし、甘みのある奥深い味が誕生するのです。
もともと与論島から大阪に就職し電子機器製造販売を行っていた玄さん。IT関連の仕事は場所を選ばない、むしろ自然に囲まれた良い環境で、広くアジアにまで市場を見据えた仕事をしようと故郷にUターンすることを決めました。当時、海洋深層水が注目を集めるようになり、沖縄でも大規模なプロジェクトが立ち上がろうとしていました。そんな中、海洋深層水を化粧品原料として研究し始めていた化粧品会社と出合います。アトピー治療の海洋療法に訪れる人もあるという与論の海。その海域で取水される深層水は清浄性が高く、皮膚の代謝に欠かせないミネラルを豊富に含むため、化粧品への応用は理にかなったもの。太古の水が海の深淵部を何万年もかけ巡り湧き上がる「湧昇」は、栄養に富み、魚たちが集まる地点。魚群探知機の開発なども手がけたことで、地元漁師の信頼も厚く、どこの海域に魚が集まるのか、海底のレイヤー(地図)も手に取るように把握していた玄さんは、最高のアドバイザーだったのです。一緒に仕事をする中で生まれた「塩」は、自然の恵みを余すことなく使い、健康に貢献でき、暮らしを豊かに彩るものをと商品化されました。現在は息子の圭史さんが中心となり、工場で海洋深層水の加工を手掛けています。
自然豊かな与論島には多くの修学旅行生が訪れますが、最近では「塩」の生産体験も人気を集めているといいます。ものづくり体験は、自然環境の大切さ、食べること、食材への興味などさまざまな気付きを与えてくれることでしょう。
「故郷を基点にすると、違った視野の世界が広がってくる」と玄さんは言います。生まれた地へのゆるぎない愛情があるからこその決断。故郷の逸品がきっかけとなり、若い人たちが自信を持って戻れる環境をつくっていく。日本のものづくりは、そこに生きる人々の強い思いによってつながれていくように感じます。(SANKEI EXPRESS)
問い合わせ先:鹿児島県大島郡与論町立長1588 (TEL)0997・97・5168。(FAX)0997・97・4759
発売元:ワミレスコスメティックス株式会社 (電)045・847・0001
※価格はすべて税抜き