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ウクライナ危機で登用された2人の元政治家
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ウクライナ東部の紛争は日に日に傷口を広げ、ウクライナとロシアに多大な国民の負担を強いている。危機打開を急ぐため、両政権は2月に入り、政界から一線を退いた有力者をそれぞれ要職に登用し、改革の断行を図る「扇の要」にしようとしている。
ベラルーシの首都ミンスクで、独仏露ウクライナの4首脳が夜を徹した16時間に及ぶ協議を行い、紛争の停戦を発効する和平合意に達した翌13日、ウクライナ大統領府が行った発表は紛争当事者たちを驚かせた。
ペトロ・ポロシェンコ大統領(49)が個人的なアドバイザーとして、グルジア前大統領のミハイル・サーカシビリ氏(47)を任命したのである。他国の首脳経験者を政権の要職に就かせるのは世界広しといえども他に類を見ない。ポロシェンコ氏は、サーカシビリ氏をウクライナの経済復興と構造改革を図るために新設した国際諮問機関の議長にも任命した。
民主化運動「バラ革命」を主導したサーカシビリ氏は2004年1月に親米改革路線を掲げてグルジア大統領に就任した。旧ソ連諸国を経済・軍事的に支配下に置こうとするウラジーミル・プーチン露大統領(62)と対立し、08年夏にはグルジア領内の南オセチアなどでロシア軍と軍事衝突。13年11月に退任するまで反露政策を貫き通した。
一線を退いたサーカシビリ氏は、ウクライナで欧州連合(EU)への統合をめぐり当時の親露派政権に対する抗議デモが始まると、13年12月にはキエフを訪れ、現在の政権の中核をなす親欧米派を支援していた。ポロシェンコ氏とはそのころから関係を深めたとみられる。
サーカシビリ氏は今月初旬にも米政治誌ポリティコに論文を発表。プーチン氏の次の狙いは「ウクライナ南部からクリミア半島までの(親露派勢力の)陸の回廊を作ること」と主張し、このままロシアの侵攻を放置すれば、バルト三国にも同様のシナリオが及びかねないとして、北大西洋条約機構(NATO)軍の投入を訴えた。
ポロシェンコ氏はサーカシビリ氏登用の理由について「グルジアで改革を成し遂げた経験を活用できる」と、あくまで政治・経済分野での効用であることを明かしたが、和平合意後もロシアは硬軟織り交ぜた圧力をかけてくることをにらみ、プーチン対策として招き入れたことは明らかだ。
しかし、この起用は新たな軋轢(あつれき)をもたらした。大統領退任後、米国に活動拠点を移したサーカシビリ氏についてグルジア新政権は汚職やデモ隊に対する暴力行為の罪で立件しており、ウクライナ政府当局にサーカシビリ氏の身柄引き渡しを要求したのである。この結果、ロシアの勢力圏から脱しようと共闘していたウクライナとグルジアの関係は急激に悪化している。
「ウサギのように逃げ回っている」(露紙コムソモリスカヤ・プラウダ)-。ロシアでもプーチン政権の意向をくみ、サーカシビリ氏を批判するキャンペーン報道が行われている。ロシア通信は18日、「サーカシビリ氏は刑事事件にまつわる自らの風潮を変えようとしている」との露専門家の話を紹介し、サーカシビリ氏がウクライナの要職に就いた理由を伝えた。
一方、欧米諸国の制裁に加え、主要輸出品の原油の価格急落で長期的な経済不況の恐れが出ているロシアでも、プーチン大統領は切り札を出した。
2月13日、モスクワで行われたプーチン氏肝煎りの危機対策会合で、前財務相のアレクセイ・クドリン氏(54)が閣僚らがずらりと顔をそろえた9人の委員のうち唯一民間から選ばれ、出席したのである。プーチン氏と昵懇(じっこん)の仲であるクドリン氏は防衛費の支出増大に反対し11年9月に財務相を辞任。以来、政権の経済政策を批判する「インナー・サークル」としての専門家の役割を担ってきた。
2月15日付の英字紙モスクワタイムズは「危機が深まるにつれて、クドリン氏の存在が脚光を浴びている」と報道。今後の経済政策でクドリン氏の役割は重要さを増してくる、と指摘した。これまで政権の要職復帰をかたくなに固持してきたクドリン氏が、プーチン氏の要請を受け入れたのは、それだけロシア経済の状況が切羽詰まってきたことを意味する。
サーカシビリ、クドリン両氏は政治家としての出自や性格も、それぞれに与えられている役割も全く違うが、ウクライナ情勢の進展で、今後、国内外で言動が注目されるのは間違いない。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)