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和菓子業界の若き匠「ワカタク」 店の垣根超えて「みんなで売る」
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今回和菓子職人デビューを果たした「彩雲堂」の山口周平さん(右端)。仲間のサポートと声援を受け、ごんち餅を作り上げると拍手がわき起こった=2015年2月25日、神奈川県横浜市西区の横浜高島屋(田中幸美撮影) 「8人の老舗和菓子店の若主人が集結して豪華共演をしています。お店は違いますが一緒にお買い求めいただけます」
横浜高島屋(横浜市西区)8階で行われている全国のうまいものを集めたグルメ催事の1コーナーに25日、白衣に身を包んだ青年が勢ぞろいした。いずれも3~8代目、30~40代の若主人たちだ。「7人の侍」ならぬ8人の和菓子の「若き匠(たくみ)たち」は1年前、全国の和菓子店を回って買い付ける高島屋のバイヤー、畑主税(ちから)さん(35)の音頭で「ワカタク」というチームを結成。昨年9月、東京・新宿高島屋でイベントを初開催し、今回は第2弾となる。
8軒がそろえた商品は、長い歴史の中で守り続けてきた定番の銘菓をはじめ新作の和菓子、さらには「桜」というお題でそれぞれが趣向を凝らして作った生菓子など計50種類。
各店舗ごとに区切られて商品が陳列されてはいるが、若主人たちは縦横無尽に他店の売り場に入り込んでは、客の求めに応じて商品の説明をしたり、他店の商品を大きな声で宣伝し売りさばいた。また、生菓子の実演では狭い実演台に2、3人が並び、協力しながらみたらし団子を楽しそうに作る光景も。「ワカタクはみんなで作ってみんなで販売する“ブランドミックス”が基本なんです」と畑さんは話す。
そして今回、和菓子職人としてデビューを果たしたメンバーもいる。「彩雲(さいうん)堂」(松江市)の山口周平さん(39)。職人ではなくオーナーとしてチームに参加した。しかし、ワカタクの熱い活動に触発され、自分も作りたいと4カ月前に一念発起した。実演したのは、地元松江で、7月25日の菅原道真公の誕生日にちなんで発売する「ごんち餅」。皮むき小豆のあんの中に柔らかい餅の入った一見赤福風のお菓子だ。
「しろ平老舗」(滋賀県愛荘町)の岩佐昇さん(41)と「乃し梅本舗佐藤屋」(山形市)の佐藤慎太郎さん(35)が両脇でサポート。餅を餡に包んで記念すべき1個目を実演台の上に載せた瞬間には、客だけでなく、その様子を見守っていた若主人らからも拍手がわき起こった。山口さんは「仲間に感謝です。職人さんの思いを共有することは経営者としてもプラスになると思う」と感慨深そうに話した。
≪歴史とともに 前に進む新世代≫
和菓子老舗の若主人による「ワカタク」(若き匠たち)はちょうど1年前、畑さんが横浜高島屋の食料品の催しなどに出ていたメンバーを集めて行った飲み会で誕生した。名刺交換も終わりしばらくして、岩佐さんが「一人ずつなぜ家業を継ぐことになったか話していかないか」と口火を切ったという。
「青柳正家」(東京都墨田区)の須永友和さん(38)や「巌邑(がんゆう)堂」(浜松市)の内田弘守さん(43)らは、先代にあたる父の急死によって社長の重責を担うことになった。また、「田中屋せんべい総本家」(岐阜県大垣市)の田中裕介さん(41)は本業のせんべい製造を下請けに回し、洋菓子やレストラン経営など事業を広げた父の方針に大反発。葛藤の末にすべてを廃止してせんべいづくり一本で勝負することを決めたと打ち明けた。
畑さんは「それぞれにすごいバックグラウンドがあり、まるでテレビのドキュメンタリー番組を見ているようだった」とそのときの様子を振り返る。「このメンバーで一緒に何かやろうよ」。同時発生的に声が上がった。
通常、酒の席のこの手の話は立ち消えになることが多いが、そうはならなかった。畑さんは数日後、新宿高島屋で9月半ばに行われる催事の場所を確保した。しかも通常の和菓子の催事の4倍のスペースで。その後、「雅風(がふう)堂」(石川県白山市)の安田卓司さん(30)と山口さんが加わり、8人のワカタクがそろった。
新宿でのイベントは、想像以上の大好評だった。通常なら店舗ごとに物販も実演も完結するのが当たり前なのに、8人が店の垣根を越えて入り乱れてなんでも作り、なんでも売った。「引網(ひきあみ)香月堂」(富山県高岡市)の引網康博さん(40)は「とても刺激を受けた。終わったあとは寂しくて喪失感があった」。須永さんも「濃い時間を共有したみんなは僕にとって仲間であり家族であり宝。宝を大切にして前に進もうと思う」としみじみと話した。
畑さんによると、3、4年前から和菓子業界では60~70代となった先代の父からバトンタッチする世代交代が全国的に起きているという。しかも「作れる若主人がたくさん出てきて、面白い人がいるのでなにか打ち出したいと思った」とワカタク結成の動機を明かす。
30年前に登場したときには異色と見られた「イチゴ大福」を作ったのは、当時ワカタクと同年代だった先代たちだ。となると、「ワカタク世代がイチゴ大福に代わる新たなスタンダードをおそらく作るであろう」。畑さんは「その応援をして和菓子を広げたい」と意気込む。(田中幸美(さちみ)、写真も/SANKEI EXPRESS)
ワカタクが出店しているのは、横浜高島屋(横浜市西区南幸1の6の31)8階催会場での催事「グルメのための味百選」の「次世代を担う若き後継者の挑戦」コーナー。3月2日(月)まで、午前10時~午後8時(2日は午後6時で終了)。問い合わせは(電)045・311・5111。また、4月15日(水)~21日(火)、新宿高島屋でも同様の催事を行う。