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風味、驚き、美しさ 「抹茶を食べる」懐石 辰巳屋

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風味、驚き、美しさ 「抹茶を食べる」懐石 辰巳屋

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茶器に盛られた八寸。ゆばとカニ身の抹茶和えや百合根の抹茶かけなど=2015年1月29日、京都府宇治市(志儀駒貴撮影)  【京都うまいものめぐり】

 「お茶を食べる」という発想から生まれた抹茶料理を供する「辰巳屋」。世界遺産・平等院鳳凰堂の東隣、宇治川のほとりにたたずむ老舗料理屋だ。茶どころ・宇治の地で1840年頃に茶問屋として創業、1913(大正2)年に料理屋となった。伝統的な京料理の随所に抹茶が使われた料理の数々は、驚きとともに“口福”をもたらした。

 京都府南部に位置する宇治は風光明媚(めいび)な土地柄で平安貴族の別荘地だったという。宇治茶の栽培が始まったのは鎌倉時代とされ、今でも日本有数の茶どころだ。茶問屋からお茶を使った料理を供する料亭となって100余年の「辰巳屋」。まずは、先代が考案したという名物の「抹茶豆腐」をいただいた。

 手間と厳選素材の豆腐

 鮮やかな緑色の豆腐に目を奪われる。濃い豆乳とともにまろやかな抹茶の風味もしっかり感じられ、カツオと昆布でとっただしとの相性も抜群だ。

 「強い甘みが特徴の北海道産の鶴の子大豆と最高級の抹茶を使って、まる3日かけて作ります」と、八代目の若主人・左聡一郎さんが説明する。大豆を一晩水に漬け、ミキサーで潰し火に掛けて漉(こ)して豆乳を作る。そこに抹茶を加え、にがりで固め、一晩冷蔵庫で冷やす。

 「豆を水に漬ける時間も季節や気温により調整が必要です。にがりや抹茶の分量は0.1グラム単位で量ります」。想像以上に手間と時間がかかるようだ。20人分の抹茶豆腐を作るのに、厳選された抹茶を25グラム以上使うという。先代と若主人のみが知る一子相伝の技だ。

 料理でお茶を使い分け

 抹茶と京懐石を融合させたコース「茶楽遊膳(さらゆぜん)」(1万5000円)は抹茶の風味と旬の食材が存分に楽しめる。茶器への盛り付けなど茶の要素が取り入れられた懐石の美しさは箸をつけるのをためらうほど。「甘鯛の茶香(さこう)焼き」は蓋をあけると甘鯛の下に敷き詰められたほうじ茶の香りが広がる。新鮮なお造りや「車エビの東寺(とうじ)揚げ」などが次々と供される。

 信楽焼の鍋で炊かれた「鯛の茶飯(ちゃめし)」は、鯛のあらとカツオと昆布のだしが凝縮された一品。熱々のところに碾茶(てんちゃ)をまぶしていただく。「碾茶とは抹茶を臼で引く前の原葉の状態のものです。熱い料理、冷たい料理などでお茶を使い分けます」と左さん。

 一口に抹茶といっても種類は豊富で、食材や料理法により使い分ける抹茶は数十種類に及ぶそうだ。煎茶や玉露なども料理に取り入れられている。

 四季の景観、繊細料理

 最後はデザート。「ひと味違いますよ」という抹茶チーズケーキは左さんオリジナルの自信作。しっとりなめらかな食感は生チョコのよう。抹茶の上品な甘みと香りが広がる。「抹茶、粉、チーズの選択から配合まで試行錯誤を重ねて作りました」という言葉通り、料理人ならではのこだわりが感じられる。

 神戸と金沢での修業の後、辰巳屋の若主人として腕をふるう左さん。「伝統を重んじる基本姿勢はそのままに、時代に合わせて辰巳屋ならではのオリジナリティーを加えたい」と意気込む。食材は、左さんが毎朝市場へ出向き、自分の目で確かめて仕入れる。繊細な料理の数々に左さんの真摯(しんし)な思いや心遣いが表れている。

 宇治川を望む絶好のロケーション。春の桜、夏の鵜飼、秋の紅葉と四季折々の景観を眺めながら繊細な料理を楽しめる。「辰巳屋の料理を食べるために宇治に来たと言っていただけるようにがんばります」と話す左さんの料理と、若女将の細やかなもてなしで、最高のひとときを過ごした。(文:杉山みどり/撮影:志儀駒貴/SANKEI EXPRESS

 ■辰巳屋 京都府宇治市宇治塔川3の7。(電)0774・21・3131。営業時間は午前11時~午後2時30分(LO)、午後4時30分~8時(LO)。※夜は要予約。水曜不定休。茶楽遊膳(1万円/1万5000円)をはじめ、抹茶料理(4500円/6000円)などメニューも多彩。※消費税、サービス料別途。

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