ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
エンタメ
地方演劇の流れに「小石を投じた」 舞台「蛙昇天」 長塚圭史さんインタビュー
更新
「僕の家族ほか、東京から見に来てくれる人も結構いた」と話す、演出家の長塚圭史さん=2015年2月28日、宮城県仙台市(藤沢志穂子撮影) ≪震災を機に仙台と交流、結実≫
劇作家の木下順二が60年以上前に発表した戯曲「蛙昇天(かえるしょうてん)」に、演出家の長塚圭史(39)が取り組んでいる。東日本大震災をきっかけに交流を始めた仙台の演劇人たちと制作、仙台に続き3月14、15日には新潟で公演する。演劇による震災復興の「進化形」ともいえ、長塚は地方演劇の流れに「『一石』ならぬ『小石』を投じることができた」と話す。
長塚は長年、一緒に仕事をしてきた舞台監督の福澤諭志が仙台出身だった縁で現地の演劇関係者たちと交流を始める。地元から「地域発信型の作品を制作したい」と要請され以前、別の舞台の参考にした「蛙昇天」に目をつけた。
「蛙昇天」は戦後、旧ソ連の捕虜となった青年が帰国後に政争に巻き込まれて自殺した実話をベースに、登場人物をカエルに置きかえた政治寓話(ぐうわ)劇。1952年の初演以降は、ほとんど上演されていなかった。
戦後数年で書かれたこの作品には、「『戦争』という目をそらしてはいけないもの」(長塚)への思いが描かれており、震災から4年を経た東北における、津波や原子力発電所の存在とだぶっても見える。
「作品から僕らがいま読み取れる普遍的なものを出そうとした。仙台の皆さんには、つらい経験で広がった視野と深い思考がある。地域発の演劇には、その土地の文化としての豊かさがあり、仙台でこそ伝わるものがある」と長塚は話す。
舞台統括の鈴木拓さん(36)は仙台市の舞台制作会社ボクシーズの代表で、震災前から仙台で演劇活動に従事。震災後は復興事業に携わり、演劇による慰問などを行っていた。「ただ支援のあり方は風化していく。あれだけの経験をした僕らが仙台で表現し続けることに意味があり、10年後20年後にも残る力強い作品を作りたいと考えた。仙台は東京と違って批評の目もなく、ライバルと切磋琢磨(せっさたくま)する環境もない。だからこそ長塚さんの『熱量』が必要だった」と話す。
準備は1年がかり。オーディションで選んだ出演者は主に仙台市在住で、他の仕事と掛け持ちしている人も多い。稽古の都合上、上演は2チームに分けた。戯曲の発表当時の政治状況を持ち回りで調べて発表し合い、昨年夏には郊外の田んぼにカエルの観察会へ。耳に焼き付けた鳴き声は、そのまま冒頭で出演者が生で披露することとなる。
この間、長塚は東京と仙台を頻繁に往復し、1月からは週の大半を仙台で過ごした。全5幕で200ページを超す台本の上演時間を約3時間にコンパクトに収めた。物語は池を模したシンプルなセットの中、テンポよく進む。
「蛙昇天」は、演劇による震災復興が進化した形でもある。長塚は「今回だけで終わらせたくない」と、地方演劇の活性化のモデルケースとしたい構えだ。
「地域で生まれたエネルギーを使い、僕らが一緒に作った地方演劇の可能性は限りなく大きい。地域の観光発信にもなり、呼んでもらえれば全国各地に公演に行く。僕らの取り組みが刺激になって、同じように演劇を作りたいという動きが地方に出ればうれしいし、東京にも刺激になる」と、さらに作品が育っていくことを期待している。(藤沢志穂子/SANKEI EXPRESS)
3月14、15日 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館劇場(新潟市)。問い合わせ(電)025・224・5521