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性的少数者も個性 ド直球の恋愛描く 鴻上尚史、中村中 映画「ベター・ハーフ」
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「僕のワークショップに参加を申し込んできてびっくり」と話す鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)さん(左)と「ちゃんと演技の勉強をしたかったので」と笑う中村中(あたる)さん=2015年3月13日、東京都新宿区西新宿(野村成次撮影) 時代を切り取る作風に定評がある劇作家、鴻上尚史(こうかみ・しょうじ、56)による恋愛をテーマにした新作「ベター・ハーフ」が4月3日から上演される。テロや無差別殺人など、すさんだ事件が増えた時代の背景には、互いを理解できず憎しみに至る人間関係の難しさがある。その対局にある恋愛を、LGBT(性的少数者)のトランスジェンダーであるシンガー・ソングライター、中村中(あたる、29)を軸に描く意欲作だ。
「ベター・ハーフ」とは相性が合うパートナーの意味。会社員の諏訪(風間俊介)は上司の沖村(片桐仁)から、インターネットで知り合った平沢(真野恵里菜)に身代わりで会うよう頼まれる。平沢も、男性として生まれ女性として生活するトランスジェンダーの友人、小早川(中村)の身代わりで諏訪に会いに行く。小早川は別の場所で偶然、沖村に出会う。4人がすれ違い、ぶつかり合いながら物語は紡がれていく。
「久しぶりに『ド直球の恋愛』を(中村)中ちゃんを核に描きたかった」と話す鴻上は、これまでにもレズビアン、ゲイなどLGBTを登場人物に置いた「トランス」「ハルシオン・デイズ」などの作品を発表、海外公演も行っている。
「人は一人一人が違う。最近のギスギスした世相は、自分が理解できないものに対して、憎んだり対立したりする結果。そんな不寛容な時代の恋愛とは何か」。その思いを投影する象徴として中村を起用した。社会にはいろいろな個性を持つ人があり、その存在を受け入れて理解し、恋愛対象とすることも自然の成り行きとする前提もある。
中村は戸籍上の性別は男性で、女優としても多くの舞台で活躍している。今回の出演は、鴻上が主宰する演劇のワークショップに参加したことがきっかけで、自身と同じトランスジェンダーを演じるのは初めて。「抵抗はなく、むしろやりたかった役で、演じることで自分を見つめ直せる。実体験は近道にも遠回りにもなる」と試行錯誤しながら取り組んでいる。劇中でも数曲、歌う予定だ。
そんな中村の恋愛観は「歩み寄り」。「私の人生観と一緒なんですが、『遠慮してなんぼ』だと思うんです。愛されたいと思うより、自分から進んで愛していくのが大切。パズルのピースに例えれば、自分が形を変えて歩み寄れば、誰とでもベター・ハーフになれるのでは」
東京都渋谷区が同性カップルに、結婚に相当する関係を認める証明書を発行する新たな条例案をまとめたことでは「家族制度が崩壊する」など反対意見も根強くあった。「論理を超えた部分が強かったりする。『女は黙ってついてこい』と同じで、理由を聞くと口ごもる」と鴻上。支援に積極的な中村は「『われわれを認めろ』と大きな声を出せばいいものでもない。揺さぶっても人の心はあかないし、出るくいは打たれるし」。
そうした環境の中、今回の作品はLGBTへの理解を促す材料ともなる。「恋愛という、手に取りやすいもので表現するところが鴻上さんの優しさ」と中村はしみじみ話す。鴻上は「恋愛は怖くてしんどいと身を引く草食系の人が増えたが、舞台を見て『恋をするエネルギーをもらった』などと感じてもらえれば」。ゆくゆくは海外公演の実現も視野においている。(文:藤沢志穂子/撮影:野村成次/SANKEI EXPRESS)
4月3~20日 東京・本多劇場、5月3~5日 よみうり大手町ホール
問い合わせ サンライズプロモーション東京(電)0570・00・3337。大阪公演あり。