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アジア民族の心ふるわせる竹の作品群 「松本秋則 オトノフウケイ」
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3階「Sound_Theater」影絵の裏側=2015年3月20日、神奈川県足柄下郡箱根町(原圭介撮影)
竹で作られた不思議な形のオブジェから、どこか“懐かしい”音が響き渡る-。彫刻の森美術館(神奈川県箱根町)で開かれている「松本秋則 オトノフウケイ」は、自然とともに生きてきたアジア民族のDNAを呼び覚ますようなインスタレーションだ。その魅力に浸ると、時がいつもより、ゆっくり流れ出す。
オブジェは竹と和紙などで作られている。風車、風鈴、チョウチョ、飛行機、時計…。何かに似た形だが、どれも見たことのない面白さ。松本氏によれば「作っていると、『こっちに曲がりたい』って、竹が教えてくれる」そうだ。約30年のキャリアで作ってきたオブジェは約300種類に上る。そのうち今回は、約100点を展示している。
そして、このオブジェたちが奏でる音もさまざま。空気を通して笛のようにヒューヒュー鳴ったり、ぶつかってカンカンと高い音を立てたり、キーキーこすれあったり…。音は調和すると思えば、けんかをして、どこにもない奇妙で、どこか懐かしい音楽を生み出している。
「昔の竹の文化を知らないような若い女の子からも『懐かしい感じがする』と言われて驚いた。今も竹とともに人々が暮らしているバングラデシュで展覧会をしたときにも『懐かしい』と言われた」と笑う。私たちアジア人の細胞の中に、何千年も前からの“竹文化”が蓄積されているからだろうか。
展覧会の特徴は、インスタレーションとして、1階が「Sound Forest」、中2階が「Sound Garden」、3階が「Sound Theater」と3つに分かれていること。森のように竹のオブジェが林立し、打楽器のような音が響く1階、管楽器としてのオブジェが並ぶ中2階も見応えがあるが、圧巻なのは3階だ。
たくさんの種類のオブジェが、つり下げられたり、立てられたりしている。それが揺れたり、回転したり。タイマーでセットされたいくつもの光源が、四方八方から断続的に照らし出す。その影が、スクリーンに映し出され、不思議な生き物(精霊)たちがうごめいているような、幻想的な影絵を作り出している。
影絵のスクリーンは、トンネルをくぐって裏側からも見られる。「裏側でもお客さんが楽しんでいる」バリ島の影絵芝居からヒントをもらったという。
3~4年の間に、バリ島以外にもタイや中国、インドを旅して、とくに少数民族の芸能に触れ、大きな影響を受けた。アジアでは、楽器を演奏しながら踊ったり、複数の芸能が結びついている。「ありとあらゆるものが総合されているような芸能が好きだ」といい、音と面白いビジュアル、動きを同時に成立させようというのが「松本スタイル」だ。
25歳で脱サラし、アーティストを目指して5年ぐらい絵を描き、ビデオアートにも挑んだ。廃品から見つけた金属でオブジェを作るようになり、竹に出合った。竹の心を読み、竹と遊ぶ。「竹とは相性が良く、肩肘はらずに表現できる」と続けている。自分の作品については「それぞれの自由な見方で鑑賞してもらえればいい。記憶やイメージをふくらませてもらえれば…」と、姿勢はあくまでも飾らない。
展覧会を企画した黒河内卓郎学芸員は「アジアの中に残るアニミズム(精霊信仰)、呪術的な文化を受け継いでいる希有(けう)な作家だと思う。ユーモラスで不思議な世界に触れてほしい」と話している。(原圭介/SANKEI EXPRESS)