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学びたい人と育てたい人「つなぐアーチ」に ワイン作りアカデミー「アルカンヴィーニュ」

 「ワインを作ってみたい」。がむしゃらに働いてきた人生にふと立ち止まり、自分が本当にやりたいことは何かを考える、40歳前後の大人が増えたと、エッセイストで長野県東御市(とうみし)でワイナリーを経営する玉村豊男(とよお)さん(69)は言う。そんな「心の定年」を迎えた大人がワイン作りを学べる拠点「アルカンヴィーニュ」を24日にオープンさせる。新しいワイナリーにアカデミーや資料館としての機能を備えた。醸造施設の見学や試飲なども計画。新たな観光拠点にもしたい考えだ。

 栽培から醸造までの過程紹介

 「アルカンヴィーニュ」は玉村さんが経営するカフェ併設のワイナリー「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」に程近い山麓にある。北陸新幹線も停車するJR上田駅から車で約30分。近くにはブドウ畑が広がり、その先には市街地と高い空が見える。まるでフランスの田舎に来たような錯覚を覚える。名前はフランス語で「ワインブドウがつなぐ人のアーチ」という意味が込められている。

 日本ワインの総合拠点ともいえる施設だ。ブドウ栽培から醸造までの過程など、ワインのあれこれを紹介するコーナーと閲覧できる資料を用意。見学料はコーヒーサービス付きで500円。ワインを試飲する場合は、見学料なしで500円から。このほか、ワインに関するセミナーやイベントも計画している。

 定員の倍以上の申し込み

 5月には、ワイン作りで起業を目指す人たちを対象とするセミナー「千曲川ワインアカデミー」を開講。講師には日本を代表する第一線の栽培醸造家を中心に、各分野の学者ら専門家をそろえ、週に2日間、一日4時間余りの研修を1年間行う。費用は48万円。「生半可な覚悟では臨めない条件にした」と玉村さん。2015年度は定員20人の2倍以上の申し込みがあり、すでに締め切った。

 中核となるワイナリーでは、ブドウの収穫を待ち今秋から醸造を始める。年間3万~5万本の生産能力があり、セミナーの卒業生がワインを作ることや、県内外のブドウ農家からの委託醸造も引き受ける予定。

 アルカンヴィーニュは玉村さんが代表を務める「日本ワイン農業研究所」が運営する。約3000平方メートルの敷地に建つ、延べ床面積約740平方メートルの2階建ての建物は総工費が約2億円。農林水産省や長野県の支援を受け農協や地域金融機関、民間投資家が出資し、玉村さんも私財を一部提供して賄った。

 設立に奔走した玉村さんを突き動かしたのは「ワインで日本の農業を強くしたい」という思いだ。フランス留学でワインへの造詣を深め、食や旅に関する売れっ子エッセイストとなった玉村さんは、体を壊したことで信州での田舎暮らしを始め、ワイン作りを思い立つ。

 新規参入好機、生活成り立つ

 素人がゼロから立ち上げたワイナリーのヴィラデストは軌道に乗り、カフェも併設して一昨年、10周年を迎えた。6万ヘクタールの畑でブドウを栽培し、年間2万本のワインを生産、カフェは年間約4万人近くが訪れる。参考にしたいと、多くの起業志望者が訪ねてくるようになり、そんな人たちの力になりたいと考えるようになった。

 「農業は大変だというイメージがあるけれどワインは古来、世界中で作られてきた。ワインブドウを作るのはそう難しいことではない。大手酒メーカーがこぞって日本産ワインの生産に力を入れ、脚光を浴びてきた今は新規参入のチャンス。将来的に付加価値のあるワインを作れれば、生活は成り立つ」

 小さくても個性的なワイナリーが集まれば大きな力となり、信州に点在するワイナリー巡りのツアーができるようになれば貴重な観光資源にもなるとし、「ゆくゆくはアルカンヴィーニュを、信州のワインツーリズムの拠点にもしたい」と話す。

 「僕もそろそろ後進に道を譲らないと」と笑う玉村さん。ワイン作りに新規参入した若い人たちと杯を酌み交わす、自由で穏やかな暮らしを夢見ている。(藤沢志穂子、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■アルカンヴィーニュ 日本ワイン農業研究所内 長野県東御市和6667。(電)0268・71・7082。午前10時~午後5時。不定休。

 ■ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー 長野県東御市和6027。(電)0268・63・7373。午前10時から日没まで。冬季休業(年末から翌2月末日まで)。

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