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食材生かす+季節感+ちょっとした驚き クチーナイタリアーナ東洞
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「サーモンのマリネと雲仙トマトのアグロドルチェ_イチゴドレッシング」は厚切りされたサーモンと、今が旬を迎える雲仙トマト、小カブなど季節の野菜の恵みを味わえる=2015年4月20日、京都市中京区(志儀駒貴撮影)
京都市の閑静な住宅街にあるイタリアンレストラン「クチーナイタリアーナ東洞」。100年前の町家を改築したレストランは、1階はカウンター6席、2階は床の間がしつらえられたテーブル10席という大人の隠れ家的雰囲気。大きな梁(はり)や雰囲気のあるしつらえは、京ならではのみやびな雰囲気に浸ることができる。
ランチとディナーはともにコース仕立て。季節感を取り入れた料理は水谷健太シェフの感性がふんだんに生かされている。
「前菜はコースの始まりを盛り上げてくれる重要な存在。ちょっとした遊び心や驚きを取り入れるように心がけていますのでバリエーションも豊富。これから暑くなる季節ならではの酢を使った前菜がおすすめですよ」と水谷シェフ。
シェフおすすめの冷前菜「サーモンのマリネと雲仙トマトのアグロドルチェ」。アグロドルチェとは甘酢を使ったイタリアの調理法のことを指すそうだ。
厚めに切ったサーモンは塩と砂糖で締めて半日おいてから甘酢に漬けてマリネする。添えられた野菜は4月から5月に出回る糖度の高いフルーツトマトの雲仙トマトに小カブ。ピンク色のソースは、季節感が味わえるようにとイチゴを使った。サ
ーモンとイチゴの甘酸っぱさに春の恵みを存分にいただいている気持ちになる。
同じく前菜の「ズワイガニと菜の花のインサラータ 生姜(しょうが)風味 白ワインジュレ」もこの時期ならではの味わい。ふんだんに使ったズワイガニと、菜の花の緑色は春の気分を盛り上げる。
固まるか固まらないかの絶妙な食感のジュレは、白ワイン仕立てでフルフル感が持ち味。ズワイガニのぜいたくな味わいと新ショウガの甘酸っぱさといった和の要素も盛り込んでいる。
そして、メーンの後に提供されるパスタは驚きの一品だ。見た目はギョーザのような形状で、中にあんが包まれているのが見える。テーブルで待っているとシェフ自ら薫製チーズをおろし器ですり下ろし、さらにパウダー状の粉糖をふりかける。
「さあ、どうぞ」とシェフ。パスタに砂糖?と味が想像できず、戸惑っていたら「イタリアの最北端、フリウリ=ベネチア・ジュリア州のチャルソンスという名のパスタなんです。甘くて不思議な味わいなんですが、はまる人も多いんですよ」と笑顔を見せる。
恐る恐るフォークで一口。まず口の中に広がるのは、ほのかな甘味とチーズのまろやかな味わい。続いて、果実の甘さが加わって複雑な味を作り出す。ピューレしたジャガイモ、レーズンやリンゴ、ミントをパスタ生地で包み込んでいるという。
食べ進むうちにもっと食べたくなるような、癖になる味だから不思議。そういえば、13世紀の神聖ローマ皇帝の時代には、パスタに砂糖やシナモンをふりかけて食べていたという記録もあるから、伝統的なパスタ料理の一つといえるのかも…。
「チャルソンスは、ぼくが修業した北イタリアでは伝統的な料理で、女性はけっこうお好きな方が多いはず。イタリア料理は食材を生かす調理法なので、手を加えるのは極力控え、食材に合わせた調理法を心がけています」と水谷シェフ。
前菜をはじめ、パスタや料理全般は客がシェアすることを踏まえ、厨房(ちゅうぼう)で希望があれば取り分けてくれるというから、スマートに食事を楽しめる。
床の間がしつらえられた2階のテーブル席は、改まった接待の席などにも喜ばれそうだ。もちろん、1階のカウンター席では、シェフ自慢の小さな箱庭を眺めながら食事がいただける特等席。雨にぬれて緑濃く苔むした庭を眺めていると、ちょっとした旅気分をも味わえる。(文:木村郁子/撮影:志儀駒貴/ SANKEI EXPRESS)