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歴史と想像力映し出す小宇宙 「知られざる中国〈連環画〉~これも『マンガ』?~」展

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歴史と想像力映し出す小宇宙 「知られざる中国〈連環画〉~これも『マンガ』?~」展

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さまざまな連環画。1ページにつき1枚の絵と文章で成り立つものが基本(原圭介撮影)  【アートクルーズ】

 「連環画(れんかんが)」という中国の絵入り読み物をご存じだろうか。西遊記や三国志といった日本でもおなじみの古典物語から、日本軍との戦いを描いた戦争娯楽活劇、はたまた革命の理想に忠実な中国共産党の英雄たちが活躍する政治宣伝色の強い物語まで-縦10センチ×横13センチほどの手のひらサイズの本のなかで、中国社会のありとあらゆる物語がビジュアル化され、庶民のための読み物として展開されてきた。

 庶民に親しまれてきたメディアであるという点や、文章と絵の両輪によって展開される読み物であるという点など、どことなくマンガとも近い位置にあるようにも思える連環画。ほとんどの日本人が知らないその世界を紹介しつつマンガとの接点を探る展覧会が、京都国際マンガミュージアムで開催されている「知られざる中国〈連環画〉~これも『マンガ』?~」展だ。

 20世紀の多様性凝縮

 中国のなかで連綿と続いてきた絵入り読み物の系譜を受け継いで連環画が生まれたのは、1920年代の上海だ。「小人書攤(しょうじんしょたん)」と呼ばれる街角の貸本屋でずらりと並べられ、子供たちから大人にいたるまで、手軽な娯楽として親しまれていた。描かれた題材は中国の古典文学から武侠小説のような通俗文学まで、多岐にわたる。

 中華人民共和国が49年に成立すると、その大衆メディアとしての浸透力に注目した中国共産党によって各地の出版社に連環画編集室が置かれ、その制作体制が整えられていく。研究者によれば、51~58年にかけて累計4億6000万冊を超える連環画が中国国内で出版され流通していたというから、その規模はさすが大陸というところだ。

 中国共産党のもとで拡大していった連環画は娯楽読み物としてだけでなく、庶民向けの科学知識の啓蒙(けいもう)や政策普及など、重要なマスメディアとしての役割をポスターなどと併せて担うようにもなった。そうした連環画の政治性がもっとも色濃く出たのが、文化大革命(66~76年)の時期だ。この頃描かれた連環画の多くが、扉に毛沢東語録を掲げつつ、党の理想に忠実な人々の姿を描いた政治宣伝色の強いものとなっている。

 文革の嵐が過ぎ去って80年代になると、改革開放路線への転換による中国社会のメディア環境の激変のなか、連環画は最後の栄華の時期を迎える。この時期、海外の映画や小説、日本のテレビドラマ、はたまた「鉄腕アトム」「タンタンの冒険」のようなマンガ作品の海賊版までもが連環画のかたちへ改編され、娯楽読み物として続々と出版されていった。そして、連環画はテレビや日本から流入してきたアニメ・ストーリーマンガのような新しいメディアに娯楽の中心としての地位を次第に奪われていき、中国の人々の大多数にとっては「過去の懐かしい読み物」となっていく。

 展示では監修者である中国文化研究者・武田雅哉氏(北海道大学教授)のコレクション300点以上をもとに、20世紀の中国社会とともに歩んできた連環画の多様性をぎゅっと凝縮したかたちで見ることができる。

 微妙な距離感

 連環画の基本的な形式は、1ページにつき1枚の絵と欄外の文章だ。その絵のスタイルも、「年画」(中国の民衆版画)をはじめとする中国の伝統的な絵画表現を受け継ぐものから、社会主義的リアリズムを反映したものまで幅広い。

 展示内では日本人にもなじみ深い西遊記を扱った連環画作品の一部をパネル化しており、その視覚的ナレーションの手法を実際に体験可能だ。マンガと異なり複雑なコマ割りや擬音などの描き文字(オノマトペ)は見られない一方、人間臭く表情豊かに描かれている登場人物たちの“キャラ”の立て方や、映画・舞台を参考にした近代的な構図のとり方、場面のつなぎ方など、連環画というメディアの形態に合わせたビジュアル面での工夫や特色は意外なほど古臭さを感じさせない。マンガに慣れ親しんだ目から見たときに、連環画における視覚的なナレーションの構造は、国や時代を超えて果たしてどれほど近しい/遠いものとして感じられるのか-ふたつのビジュアル・ナラティブ(視覚的物語)の間にあるこの微妙な距離感が、本展の副題である〈これも「マンガ」?〉の疑問符に反映されている。

 他にも本展では、40年代に発表された、モダニズムと中国民衆芸術の意匠とを取り入れた特異なビジュアルが印象的な張光宇『西遊漫記』や、「新漫画」という名のもとで90年代以降に隆盛となる中国産ストーリーマンガの雑誌や作家たちも紹介している。中国美術の世界とはまた異なる中国生まれのビジュアル・イメージの小宇宙、ぜひ体験していただきたい。(京都精華大学国際マンガ研究センター研究員 雑賀忠宏/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■「知られざる中国〈連環画〉~これも『マンガ』?~」 7月5日(日)まで、京都国際マンガミュージアム(京都市中京区烏丸御池上ル)で。5月30日(土)には学術シンポジウム「〈連環画〉、そのさまざまな顔~他ジャンルとの接点をさぐる~」も開催。毎週水曜(6日を除く)および5月7日、6月1~4日は休館、大人800円、中高生300円、小学生100円。(電)075・254・7414。kyotomm.jp/

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