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ドイツのニュージェネレーション ニューウエーブ ファルツ、バーデン 青木冨美子
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醸造畑「クロスター・ベルク・フェルゼン」で若木を見守るスヴェン・ニーガーさん=2015年4月29日、ドイツ(青木冨美子さん撮影)
《毎週木曜日にコラム「ワインのこころ」を連載中のワインジャーナリスト、青木冨美子さんが4月26日から1週間、ドイツワインの有名産地である南ドイツのファルツとバーデンを訪れた。今回は「ワインのこころ」拡大版として、両産地を活気づけている新世代の動きを報告する。》
ぶどう栽培地の北限にあるドイツに追い風が吹いている。気候変動の恩恵によるワインの変化と若手醸造家による新たなうねりである。
ファルツとバーデンではドイツの固有品種リースリングと黒ぶどうのシュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)をメーンに探求したが、温暖な気候に恵まれている両地域のぶどうは完熟し、凝縮感のあるワインが数多く生産されている。特に、赤ワイン(シュペートブルグンダー)の変化には目を見張るものがある。
ドイツには13の特定ワイン生産地域があり、ファルツは国内で2番目に大きなワイン産地である。
ファルツで出会ったのは、ファミリーを継承する5人の若手醸造家だった。彼らは25年前、南ファルツの活性化とワインの品質向上を目的に結成した『5 Friends』の跡継ぎで、親たちはドイツ高級ワイン生産者連盟(VDP)会員として信望もあつく、ファルツワインの素晴らしさを世間に示した世代である。5人のなかにはすでにワイン醸造を任されている者もおり、5家族ともワイン造りの伝承は順調だ。
リースリングやシュペートブルグンダーのみならず、外来品種のシャルドネ等にも取り組んでいる新旧の5 Friendsの活動からは目が離せそうにない。
ファルツからもうひとつのワイン産地バーデンへ。ここでは女性醸造家として活躍中のアンネ・クリスティン・トラウトヴァインさんと、「ワインは土壌が命」と語るハンス・ペーター親子に取材した。
ドイツ最南端のバーデンは南北に長く、気候的にも差があるため、栽培されている品種も多い。ここでの注目品種もやはりシュペートブルグンダーだ。ドイツは、近年、気候変動の影響下、従来のイメージを覆す高品質な赤ワインを生産している。
1649年創業のトラウトワイン醸造所の当主ハンス・ペーターさんはバーデンにおけるビオディナミの先駆者である。農薬などは使わず、天体との調和を基にした農法を導入してから、30年以上を経た『フォーベルク』のぶどう畑の土壌は微生物のおかげでふわふわ、ぶどうの葉は緑に輝き、健康そのものだ。
ドイツの名門ガイゼンハイム大学を卒業したまな娘アンネ・クリスティン・トラウトヴァインさんは、3年前から父とともにセラーでの仕事に携わってきたが、2014年から醸造責任者として若い力を発揮。ブルゴーニュの秀逸な生産者メオ・カミュゼでの修業経験を赤ワイン造りに反映させ、トラウトワイン醸造所に新風を吹き込んでいる。
試飲した『シュペートブルグンダー エディション トロッケン2012』はシルクのような舌触りのタンニンと酸味が口中に広がり、繊細さとパワーが同時に伝わってくる魅力的なワイン。ドイツの赤ワインの変化を明確に感じた1本だった。
バーデンの歴史ある醸造所から一転。今度は珍しいガレージ・ワイナリーを訪問した。当主はスヴェン・ニーガーさんで、ワイン造りの夢をガレージに託した独立派だ。このような形態のワイナリーはドイツでも数少ない。
ガイゼンハイム大学を卒業後、オーストリアとNZで修業。2011年から副業としてワイン造りを始め、夢を実現させるため、ガレージの多い家をレンタルして、13年5月に独立。なかには醸造に必要な圧搾機やステンレスタンク、フレンチオークのたるが並んでいる。
管理する畑は7ヘクタールで、その内訳は1.5ヘクタールの自社畑と残りは20年契約の畑。バーデンは協同組合の統廃合が進み、後継者のいない畑があるので畑は入手しやすいそうだ。
理想のリースリングを生み出す銘醸畑『クロスター・ベルク・フェルゼン』で、「熟成とともに味わい深くなっていくワイン造りをめざしています」と語っていた。初ビンテージ2012はレストランで取引され、ワインの動きも好調だ。ニーガーさんの爽やかな笑顔はバーデンの青い空に実に良く似合っていた。
「いままでのようにライバルとしてではなく、ワイン造りの同志として意見交換をする場が増えました」とトラウトワイン醸造所のアンネさん。若手醸造家の起こした波は、国内の醸造家たちの意識を変え、究極、ワイン造りにも反映している。昔の栄華を取り戻すさらなる大波が来ることを期待している。(ワインジャーナリスト 青木冨美子/SANKEI EXPRESS)