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生き物が嗅ぎ分けるガンの匂い 大和田潔

 2007年のNEJMという権威ある医学雑誌に、死に直面した人のベッドにたたずむネコのオスカーを取り上げたエッセーが掲載されました(A Day in the Life of Oscar the Cat.David M.Dosa)。オスカーは、老人介護ケア病棟の住人として暮らしているネコです。

 オスカーは、死に面した人を“かぎわける”直感力があるらしいとのこと。「オスカー 天国への旅立ちを知らせる猫」(原著“Making rounds with Oscar:the extraordinary gift of an ordinary cat”、早川書房)として出版されています。本人だけでなく、家族やスタッフの心に潤いを与えていることがつづられています。亡くなられる方の傍らに、静かに寄り添うネコの姿はりりしく、詩的です。

 嗅覚の優れたイヌは、ガンが潜んでいることを見つける能力があるようです。「がん探知犬」と呼ばれています。異常増殖するガンは、通常の細胞があまり作らない物質を大量に作り出すことがあります。

 胎児の時に作られ、出生後はほとんど作られないタンパク質は、ガンのマーカーとして用いられています。血液中の濃度が、数値化されます。人間には感知できない、そういった物質の「匂い」を、犬は嗅ぎとることができるのかもしれません。「がんは『におい』でわかる!」(外崎肇一著、光文社)といった本も出版されています。愛らしい動物が、悪化するまえのガンを見つけてくれるなら心強い話です。

 ガン探知犬の嗅覚の研究を受けて、驚くべき報告がなされました。九州大学の研究チームが米国科学雑誌に発表した、「線虫」がガン患者の尿を嗅ぎ分けるという論文です。線虫には、犬と同レベルの匂い分子をキャッチするタンパク質が存在するとのことです。

 線虫は、半透明なごく小さなミミズのような生き物です。飼育も容易で全遺伝子が解明されているため、科学実験によく使われます。もし、尿一滴でガンが体に潜んでいるかどうか分かるとすれば、必ずしも上昇しないガンのマーカーや、被曝(ひばく)量の多い画像検診よりも有用かもしれません。

 これからは、さまざまな生き物たちが私たちを守ってくれる時代になるかもしれません。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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