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経済
東京円 12年半ぶり一時124円台 東証、バブル以来の10連騰 食品値上げに家計悲鳴 消費へ悪影響懸念
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円安が進み、1ドル=124円台を表示するボード。日経平均株価の終値は10営業日連騰となり、一時は2万600円を超えた=2015年5月28日、東京都港区東新橋の外為どっとコム(福島範和撮影) 円安・ドル高の流れが止まらない。28日の東京外国為替市場の円相場は、ニューヨーク市場で1ドル=124円09銭をつけた流れを引き継ぎ、東京市場でも円売りドル買いが優勢となり、一時1ドル=124円30銭まで下落した。米国の景気回復への期待感や年内利上げ観測を背景に2002年12月上旬以来、約12年半ぶりの安値をつけた。
円安を好感して東京株式市場の日経平均株価は10営業日連続で値上がりした。バブル期の1988年2月に13日連続上昇して以来となる。東京証券取引所第1部の時価総額は一時600兆円を超え、終値ベースでも過去最高額を上回った。
円は対ドルで4日続けて下落したが、市場では円安基調が当面続くとの見方が強まっている。円安は輸出企業の業績改善につながるが、食料品や原材料などの輸入価格が上昇して家計や中小企業の負担が増える。さらなる円安が国内経済に与えるマイナスの影響も問題となりそうだ。
菅義偉(すが・よしひで)官房長官は28日の記者会見で、円安に関し「為替の変動は常々注視している」と述べるにとどめたが、株価上昇には「低いより高い方がいい。アベノミクスが着実に浸透し始めているのではないか」と歓迎した。
午後5時現在の円相場は、前日比65銭円安ドル高の1ドル=123円63~64銭。ユーロは99銭円安ユーロ高の1ユーロ=135円27~31銭。
年内の利上げを示唆した米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長の発言が引き続き取引材料となり、日米の金利差拡大を意識した円売りドル買いの圧力が強まった。
日経平均株価の上昇が続き、投資家のリスク回避姿勢が緩んでいることも安全資産とされる円を売る要因になった。その後は利益確定を狙った取引も出て、円相場は下げ幅を縮めた。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「米国で利上げする可能性が高まるにつれ、年内に127円まで円安が進む」との見通しを示した。
≪食品値上げに家計悲鳴 消費へ悪影響懸念≫
約12年半ぶりの水準に進んだ円安は自動車など輸出企業に好業績をもたらすが、家計は食料品の値上げに悲鳴を上げる。輸入に頼る原材料の価格高騰が企業経営には一段の重荷となっており、行き過ぎた円安が景気回復を鈍らせるとの懸念も強まってきた。
「グレープフルーツが好きだが、高いのでなるべく買わないようにしている」。東京都練馬区のスーパー「アキダイ関町店」に買い物に来た女性(73)は顔を曇らせた。
輸入物の果物や野菜は値上がりが激しい。このスーパーでは例年、米国産グレープフルーツは4個入りで税別680円だが、ことし3月からは3個で880円に高騰している。1袋100円のニュージーランド産タマネギは、4個入りから3個入りに減らした。
仕入れ価格が上昇して利益が少なくなったという理由で一部の専門商社が輸入量を減らしているため、品薄状態が続いているという。
「今期の想定為替レートを前期と比較すれば1500億円のマイナスの影響がある」
ソニーの吉田憲一郎副社長は、2016年3月期の営業利益の予想が昨年示した計画から大きく下振れするのは円安が主因だと強調する。
ソニーは生産拠点の海外移転を進めた結果、国内で販売する製品の多くを輸入する形となっており、対ドルで円安が1円進むと70億円の営業減益になる。今期の想定レートは1ドル=120円前後で設定しているため、現在の水準が続けば、減益幅はさらに300億円近く膨らむ見通しだ。
円安による仕入れ価格や製造コストの上昇を価格に反映するため、21日にはカメラ周辺機器の値上げに踏み切った。採算の改善を期待できるが顧客離れを招く恐れもあり、関係者は「業績にプラスに働くかどうかは不透明だ」とみる。
一方で自動車は円安の恩恵を大きく受け、大手8社の15年3月期連結決算はトヨタ自動車など4社が最終利益で過去最高益を更新した。
生産を国内に回帰させる動きも出ている。日産自動車は北米で好調なスポーツタイプ多目的車(SUV)「ローグ」を15年度末ごろから福岡県苅田町の工場で生産し、輸出する計画だ。
16年度には国内の生産台数が2年ぶりに100万台を超える見込みで、カルロス・ゴーン社長は輸出競争力が戻ることで「国内の生産台数は上がる」と歓迎する。
みずほ証券の上野泰也シニアエコノミストは「円安はトータルでは日本経済にとってプラスだが、産業構造の変化で以前ほど恩恵が出にくくなっている」と分析する。「企業業績の改善で賃上げが進んでいるが、円安による物価高で相殺されてしまう」と消費への悪影響を指摘している。(SANKEI EXPRESS)