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足るを知り、体をメンテナンスする 大和田潔

 クリニックの前の複合商業施設「アトレ」では高価なサプリメントが販売されています。パッケージも美しく、芸術品の域に達しています。帰り際に購入しているOLの方々もよく見かけます。

 安価でおいしいものも手にすることができるようになりました。テレビではグルメ番組が花盛りです。B級グルメから、高級店までおいしいものに終わりはありません。食事番組の間には、次々に新車が宣伝されます。洋服のブームもやってきては去っていきます。

 もっともっと素晴らしいものが世の中にはあるというメッセージ。たくさん働いてもっともっと何かを手に入れようと考えたりします。

 同時に、目の前の素朴な生活の大切さも忘れないようにしましょう。自分の足で歩いて、空気を吸って、飲みたいものに手を伸ばして味わう。運動したいときに好きなスポーツをする。友人や家族と会話する。「何げないけれど、つつがなく暮らせる日常」の素晴らしさを確認するのも良いものです。

 先日ご紹介した、重篤な患者さんに寄り添う猫オスカーの本に、認知症の患者たちの様子が描かれています。それまでさまざまな教育や訓練を受けてきたり、家族と仲良く暮らしてきたりした人々の記憶や人格が、少しずつ失われていく悲しさやむなしさがつづられています。

 病は、突然やってきます。たとえば脳卒中を起こすと、これまで何げなく過ごしていた暮らしが一変してしまいます。普通に歩いたり、食事をしたり、スポーツをしたりすることがままならなくなります。これまで自分でやってこれたことが難しくなるのです。

 そういったことに思索をめぐらせてみましょう。これまで普通だと思っていたものが、どれほど貴重なものだったのかを自覚することができます。合併症が起きないように、追加するよりも節制して体をメンテナンスする。

 それを先人たちは、「足るを知る」という言葉にしました。大切なものはすでに手にしていると考え、できるだけ長続きするように慈しむ。高価な何かを追い求めるよりも、体をメンテナンスしてシンプルに過ごすことこそが幸福感を生む。そういったことを教えてくれる良い教えです。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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