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【USA! USA!】(21)ミシシッピ州、ルイジアナ州 南北戦争伝える「未完の豪邸」
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南北戦争前に建設が始まったプランテーション・ハウス「ロングウッド」は、開戦とともに職人が北部に帰ってしまったため2階より上層階はいまも未完のままだ=2015年3月19日、米ミシシッピ州ナッチェス(川口良介撮影) 18世紀末から19世紀初頭、ミシシッピ川に沿って、サトウキビや綿花などを栽培したプランテーション(大農園)の経営者たちはこぞって豪邸を建設した。広大な農園の中に点在するぜいたくなヨーロッパ風の建造物は、華やかな富裕層の暮らしと、それを支えた黒人奴隷の過酷な生活の両面を持っていた。
1861年、米国を二分した南北戦争が火蓋を切った。自由貿易と黒人奴隷の労働力を求める南部。他国の製品に関税をかける保護貿易と奴隷制度廃止を求める北部。経済、思想の両面での対立が要因となった。4年後、北部のアメリカ合衆国が戦況を優位に進め、戦争は終結。「南部同盟」も「奴隷制度」も終わりを告げ、栄華を極めた豪邸の多くは北軍により破壊、または放置され消失していった。現在では、破壊を免れた一部が「プランテーション・ハウス」として修復され、当時の暮らしを伝えている。
ミシシッピ州ナッチェスの「ロングウッド」は、八角形の外観がユニークなプランテーション・ハウス。綿花で栄えた農園主が1859年に建設を計画、60年に着工した。作業は急ピッチで進められたが、南北戦争の開始とともに建築資材の搬入が滞り、優秀な職人たちも北部に逃げ帰ってしまった。工事が途中で中断された上層階の内装は、柱など骨組みがむき出しのまま。今でも吹き抜けの状態だ。
≪「歴史学んで何かを吸収して」≫
ルイジアナ州の州都バトンルージュから、蛇行するミシシッピ川に沿ってニューオーリンズまでリバーロードと呼ばれる州道が走る。道沿いに点在するプランテーション・ハウスの中でも一番の人気を誇るのが、1日に約1200人もの観光客が訪れる「オークアレイ・プランテーション」だ。
サトウキビ栽培で財を成した農園主が、1837年に豪邸を建設。樹齢300年を超す28本のオーク(カシの木)が門扉から邸宅まで400メートルのアーチを作り、その美しさから映画やテレビ番組のロケ地としても多く利用されている。ここで撮影された映画「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)に出演した俳優、ブラッド・ピットさん(51)は、今でも年に1度ここを訪れるそうだ。
館内では、サザンベルと呼ばれる裾の広がった、伝統的なドレスを着たガイドが案内してくれる。その姿は映画「風と共に去りぬ」の世界を思い起こさせ、来館者を19世紀の南部に誘う。
しかし主人公のスカーレット・オハラもそうであったように、農園主たちの華麗な生活は、黒人奴隷の労働力の上に成立していた。その黒人奴隷の過酷な生活を伝えるため、敷地内には奴隷小屋や当時の写真などが展示されている。
そこに、この農園で唯一解放されたゼフィールという奴隷の話が紹介されていた。妻と息子たちとともに連れてこられた彼は、農園主の母親の遺言により長い奴隷生活からついに解放される。そして残された家族を解放するため彼は農園に残り、給料をもらいながら働き続けた。10年後、彼は自分の妻を350ドルで購入し取り戻す。ゼフィールが70歳、妻が60歳の時のことだ。だが子供は奴隷として残され、自身も高齢のため働くことが難しくなったこともあり、結局農園からは出ずに一生をここで終えたという。
技術スタッフとして館内で働くゲイリー・ドーフィンさん(54)は「私たちの使命は来館者に歴史を伝え、過去の出来事から新しい知識を学んでもらうこと。奴隷制度や南北戦争、サトウキビ栽培など、今の生活とは違うものを見て、何かを吸収してもらえたらうれしいですね」と話した。
南北戦争の終結から150年を経た現在でも、米国では警官による黒人射殺事件などが相次いでいる。人種問題は今も多くの米国人の心に影を落としている。(写真・文:写真報道局 川口良介/SANKEI EXPRESS)
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取材協力:ミシシッピ・リバー・カントリーUSA日本事務所 mrcusa.jp