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どうしてこの二人はこんなに似ているのか? 森村泰昌の比類ないアートブックウェア感覚

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どうしてこの二人はこんなに似ているのか? 森村泰昌の比類ないアートブックウェア感覚

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2012年5月26日、連塾「本の自叙伝」(スパイラルホール)では、森村泰昌が松岡正剛となって舞台に登場し、満場を沸かせた(提供写真)  【BOOKWARE】

 右上の写真には松岡正剛が二人写っている。後ろで横を向いているのがセイゴオ本人で、前で鋭い視線を遠くに送っているのが「松岡正剛もどき」の森村泰昌である。この人はぼくが最も信頼しているアーティストだが、そのモリムラ本人が「ぼく」になり、二人で舞台に立った。なぜこんな謎めいたことがおこったのか。

 これは「連塾」(れんじゅく)の最終回の一場面なのである。連塾は2003年から年数回ずつのインターバルで始めたトークイベントで、ぼくがソロで5時間トークを8回連続でしたときもあったし、藤原新也・萩尾望都(はぎお・もと)・五木寛之・井上ひさし・川瀬敏郎・唐十郎・川上未映子・柳家花緑(やなぎや・かろく)・山口小夜子(やまぐち・さよこ)・田中泯(みん)・横尾忠則・いとうせいこう・黛(まゆずみ)まどか・長谷川真理子・津田大介・押井守・観世銕之丞(かんぜ・てつのじょう)・佐藤優(まさる)といったゲストを招いて、あれこれ濃~い話を交わしもしてもきたのだが、2012年の20回目をラストの「本の自叙伝」として打ち上げた。このステージで3人のゲストに名を伏せて登場してもらった。能楽師の安田登、デザイナーの山本耀司、そして森村セイゴオだった。

 このときモリムラ伯は「ぼく」に扮装し、舞台の袖でぼくが話を始めると、あたかも「ぼく」のような身振りで“松岡ぶり”を演じたのですね。大ウケでした。上の写真はそのときのキチョーな記念スナップです。

 モリムラ・アートは「肖(あやか)る芸術」である。ゴッホにも三島由紀夫にもゲバラにもフリーダ・カーロにも岩下志麻(しま)にも成りきって、美術史や表現史そのものを根底から揺さぶっていく。そこには「似る」とは何かということが問われ、「うつす」とは何かということの普遍が俎上にのっている。美術が写生やスケッチを重視してきたのは誰もが知っているが、では「うつす」(写す・映す・移す)とは本来どういうことなのか、あまり考えてこなかったのだ。

 「本の自叙伝」で、ぼくは自分がそこにみごとに「うつされている」のを実感して、おおっと驚きました。しかしモリムラ伯はこんなふうに言っていた。「表面を似せるのは簡単です。ぼくが誰かになるときは、その人物の魂とか心になろうとするんです。そうしないと何かが似てこない」。なるほど、その日、ぼくはモリムラ・アートに大事なものを持っていかれたような気がしていたのですね。ただ、それはたいそう心地よいもので、モリムラ・ムラムラするものだったのですよ。

 【KEY BOOK】「芸術家Mのできるまで」(森村泰昌著/筑摩書房、2262円、在庫なし)

 初期のものだが、モリムラ本の決定版である。祖父江慎の装幀もいい。20世紀末までの自伝としても堪能できる。ぼくは本書を千夜千冊に採り上げた。極め付けのヴィジュアライザーである森村泰昌は、実は言葉の哲人でもある。会話をしていても文章を読んでも、そう思う。しかも、作品の中にも世界言語が充満してもいる。そのことを知るにも本書からモリムラ入門をするのがいい。

 【KEY BOOK】「美術の解剖学講義」(森村泰昌著/ちくま学芸文庫、1080円、在庫なし)

 この本ではモリムラ先生が手取り足取り「芸術」というものの制作秘密を丁寧に明かしている。アーネスト・サトウとカルチェ・ブレッソンの写真術の解説を読むだけでも凄いことがわかるし、マネの絵の見方を通しては全美術史の裏側が掴めるはずだ。はっきり言って、これから芸術に挑もうという諸君は、本書を真似したほうがいいだろう。現代アートもぐっと変わってくるのではないか。

 【KEY BOOK】「空想主義的芸術家宣言」(森村泰昌著/岩波書店、1944円、在庫なし)

 空想は「カラの想い」のことではない。空想は充実しているものだ。だから空想するだけならば、何にでもなれる。けれども空想はアタマの中にしかない。これを見えるものにするには「空装」がいる。この本は無類の空想主義者の森村が「空想をいかに空装にするか」の考え方と手口を述べたものだ。空装の天才マルセル・デュシャンの真意を知るためにも、熟読したい。

 【KEY BOOK】「美術、応答せよ!」(森村泰昌著/筑摩書房、1944円)

 21世紀日本の最も深い思想書のひとつ。芸術思想書だが、生き方と選び方の思想書でもある。それだけではなく、そうとうに役に立つ。「粘り」と「やりとげる」が学べる。香山(かやま)リカや野村萬斎(まんさい)やアラーキーの質問に答えるという形式になっているのも、出色だ。モリムラにとっての「私」って何とか、美術における「化ける」って何とか、質問もいい。が、モリムラの答えがもっといい。

 【KEY BOOK】「全女優」(森村泰昌著/二玄社、3888円)

 絵画の中の人物になりすましていたモリムラ伯は、やがて画家そのものにも革命家にも事件の当事者にもなっていった。けれどもぼくから見ると、どうも女優に変身することにこだわっているところが愛らしいのだ。本書はディートリッヒ、ガルボ、モンロー、バルドー、ドヌーブ、原節子、岩下志麻になったモリムラ・マジックの集大成。とくにディテールとマチエールの再現力に注目すべきだ。(編集工学研究所所長、イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。2012年4月22日(日)のセイゴオひびより。「ふっふっふ、森村泰昌さんと秘密の打ち合わせ。われわれは実はよく似た2Mなのである。森村Mは他者になり、松岡Mは他書になる」。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis. ne.jp/

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