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【まぜこぜエクスプレス】Vol.53 「ピースフル空気」みんな笑顔に ダウン症のアーティスト おがたりこさん
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キュートな作品に囲まれた、おがたりこさん(右)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる。2人が着ているオリジナルTシャツ(3000円~)はイベント会場などで購入できる(tobojiさん撮影、F★E★P協力) カラフルな作風で注目されているダウン症のアーティスト、おがたりこさん。まだ21歳という若さだが、いつもにっこり笑顔のクマ「はるくまくん」、ニョロニョロした蛇のような謎の生き物「ががけべ」など、多くの人に愛されるオリジナルキャラクターを生み出してきた。数々の名作誕生の舞台となった創作スペース「F★E★P」(東京都世田谷区)にお邪魔し、ご家族に話をうかがった。
りこちゃんとの出会いは、六本木ヒルズのフリースペースumuでGet in touchが開催したアート展だった。遊びに来てくれた彼女に、お絵かき用のチョークを渡すと、迷いなくピンクや水色のスイートな色を選び、大きな窓ガラスにのびのびと丸を描き始めた。時にはあぐらをかいたり、しゃがんだり、脱力スタイルで黙々と描いている。みるみるうちにかわいいクマの絵が重なっていく。
「クマさん?」と声をかける私を不思議そうに見つめ、ちょっと高い遠慮がちな声で「はるくまくん」と教えてくれた。「はるくまくんっていう名前なんだ。一緒に描いていい?」と聞くと、首をコクリと縦に「うん」と、トロリとした笑顔。ママの雅子さんも「こんにちは」と優しい笑顔。ピースフル空気が澄みわたるようだった。
そんな出会いから、私たちが開催するアート展やイベントに参加してもらえるようになった。若手アーティストとして人気急上昇中のりこちゃんだが、雅子さんは「積極的なプロモーション活動はやってないんですよ」と言う。「気にいってくれた人が声をかけてくれて、どんどん活動が広がってきました」
確かに、「次回の企画にりこちゃんも参加!」と伝えるとGetスタッフはみんな喜ぶ。みんな、はるくまくんが大好き。りこちゃんの大ファン。ピースフル空気に癒やされる-と。
大人気のはるくまくんだが、ただのキュートなクマではなかった。モデルになったテディベアのぬいぐるみは、パパ敏朗さんの実家の晴生(はるお)おじいちゃんの仏壇に座っているという。名前の由来は7年前に亡くなった大好きなおじいちゃんだったのだ。「今でも愛媛の実家に帰ると、はるくまくんをずっと抱きしめている」と、雅子さんが教えてくれた。
りこちゃんのマイブームである富士山にも、理由がある。「亡くなった晴生おじいちゃんは、富士山の上のお空にいるんだよ」と。りこちゃんの暖かな絵は、彼女を見守ってきたおじいちゃんとつながっているんだなとわかって、いっそう彼女の絵が好きになった。
ほのぼのとしたりこちゃんファミリーだが、決して順風満帆だったわけではない。生後3カ月で、りこちゃんに心臓疾患が見つかった。その際、医師からは「手術をしないで、自然に」と言われた。つまり、治療しないで寿命を迎える方がいいと告げられたそうだ。ご両親は「お医者さんがおっしゃってるからそうなのかなあ」と、うのみにするところだったが、友人のアドバイスもあり他の病院を受診。「すぐに手術をしないとこの冬を越せない」と言われ、手術を受け無事成功。九死に一生を得たが、最初の先生の意見っていったい何だったんだろうと、1年間くらい納得いかずに自問していたという。
病院によってそういう風潮があり、医師が障がい者差別をするという想像もしなかった現実を知った。出生前診断という新たな試練に親たちがさらされる今、「ダウン症の子供たちを、どうぞいらっしゃい!って、迎え入れる社会になってほしいなと思いますね」と、ご両親。
敏朗さんは、ずっとりこちゃんの手を握ったりさすったり。とてもいとおしそうに。敏朗さんと雅子さんの話を聞くと、2人がりこちゃんと過ごす時間を最大限に楽しんでいることが伝わってくる。「宇和島の闘牛を観に行ったら牛の絵を描き始めたりと、素直に刺激に反応してくれる」と、敏朗さんはニコニコ。
最近のりこちゃんは大作にも取り組んでいる。100号(1620ミリ×1300ミリ)ぐらいのキャンバスに、ハケや筆でダイナミックに身体全体を使って描く。「やらせたらできたの」と雅子さんもうれしそう。公開ライブペイントも企画したいねと、私たちはひそかに盛り上がっている。りこちゃんの創造能力はどんどん開花していく。スイートにピースフルに。(一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/撮影:フォトグラファー toboji/SANKEI EXPRESS)
≪6月13日にイベント参加≫
りこちゃんは6月13日に東京都世田谷区の二子玉川ライズオフィス8階のカタリストBAで開かれるアートイベント「アンサンブルdeアート」に参加。また13、14日に「まちなかミュージアム」in二子玉川商店街で作品が展示される。詳細はwww.futacolab.jp/ensemble/ensemble_de_art_2015.htmlまで。