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【ソーシャル・イノベーションの現場から】子供の養護「家庭に勝るものはない」 世界的専門家招きシンポジウム

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【ソーシャル・イノベーションの現場から】子供の養護「家庭に勝るものはない」 世界的専門家招きシンポジウム

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子供の家庭養護に関するシンポジウムで「家庭に勝る場所はない」と訴えるジョルジェット・ムルヘアさん=2015年6月8日、東京都港区(日本財団撮影)  スクリーンに映し出されたのは、寄り添う大人に肩をさすられながら証言席に座る、眼鏡をかけたおかっぱ頭の少女。日本なら小学校に通っている年ごろだろうか。彼女は5年間施設で暮らしたという。10歳だとしたら人生の半分だ。「私の夢は家に帰ることでした。私たちに必要な愛情や教育が(施設には)ないからです」。自らの体験を語る口調は、あどけない顔に不釣り合いなほどはっきりとしていた。

 さまざまな事情で実の親と暮らせない子供の家庭養護に関する世界的な専門家、ジョルジェット・ムルヘアさんが来日し、東京都・赤坂の日本財団ビルで8日、シンポジウムが開かれた。ムルヘアさんは「子供が家庭で暮らす社会にむけての道しるべ~中央・東ヨーロッパの事例から~」と題して講演。終盤に紹介した少女の動画で「どんなに良い施設でも家庭に勝るものはない」というメッセージを強く伝えた。

 特別養子縁組の普及へ

 ムルヘアさんは20年以上にわたり計23カ国で大規模な家庭養護推進プログラムを先導してきた。2011年には「ハリー・ポッター」シリーズの著者、J・K・ローリングさんが05年に創設した英国のNGO「ルーモス」の最高経営責任者(CEO)に就任。ルーモスは、社会的養護を必要とする子供たちが、施設ではなく家庭で暮らすための体制づくりを世界中で支援している。これらの活動が認められ、ムルヘアさんは「世界で最も影響力のあるソーシャルワーカー30人」の一人にも選ばれている。

 シンポジウムは、多くの子供が温かい家庭で暮らせるように特別養子縁組の普及・啓発を進める日本財団とルーモスが、海外の先進事例を学び日本での取り組みに生かしていこうと開催した。会場にはベビーカーを押す女性から国会議員まで約140人が訪れ、熱心に登壇者の発言に耳を傾けた。

 日本では現在、社会的養護を必要とする子供の85%が施設で暮らす。この割合は先進諸国の中で極めて高い。ルーモスの資料によると、施設で養育されている子供(0~18歳)は、日本は1万人当たり16人なのに対し、英国では5.5人と日本のおよそ3分の1だ。この数を乳幼児(0~3歳)で見た場合の差はさらに歴然で、日本が7人であるのに対し、英国やスウェーデンは0人となっている。

 シンポジウムでは、ムルヘアさんのほか、同じく来日した欧州委員会地域・都市政策総局政策アナリストのアンドル・ユルモスさんも登壇し、欧州での取り組みを紹介。そろって子供を施設ではなく家庭で育てることの重要性を訴えた。

 欧州で進む「脱施設化」

 ムルヘアさんは、施設で暮らす子供が世界で800万人おり、このうち80%には実の親がいることや、施設入所が成長に好ましくない影響をもたらすという研究結果があること、そして家庭での養育のほうがコストも抑えられることなどを報告。ユルモスさんは、欧州では地域でのケアを充実させる「脱施設化」を進めていることを紹介し、それに至った経緯や成果について説明した。

 日本でも、厚生労働省が施設で暮らす子供を減らし、里親など家庭養護の割合を全体の3分の1に引き上げるという目標を掲げている。ただ、2人の専門家は施設の全廃を訴えたのに対し、日本では現在、一定程度の施設の利用を前提としている。施設の全廃を目指すか否か。ムルヘアさんは講演の中で、目標の相違にあえて触れ、「質の高い施設であれば、家庭より良い」という意見に対し、「家庭に勝るものはない」と反論した。

 シンポジウム翌日に設けられた国会議員との勉強会でも、「(日本では施設を)けしからんという考え方ではやっていない」と理解を求める議員に対し、ムルヘアさんは「8~10人以上の子供が暮らす規模の大きな施設では、子供への悪い影響は避けられない。状況は各国で異なるが、どの国の子供も家庭がないと元気に成長していくことができないのです」と訴えた。

 施設でのケアに詳しい児童精神科医で長野大学准教授の上鹿渡和宏(かみかど・かずひろ)さんは、小規模化など施設の質向上に日本が努めてきた経緯を踏まえ、「施設から家庭に子供を移す時、子供にとって環境の質が下がらないようにすることが大切になってくる」と指摘。トレーニングが充実する国での里親研修など、日本に必要な取り組みを模索しているという。大規模な施設で暮らす子供の割合が日本で特に高い背景には「人手不足」も指摘されており、こうした問題の改善も急務だ。

 夢は何かと尋ねられ「家に帰ること」と答える子供が一人もいなくなるような社会の実現に向け、知恵を絞り、さまざまな角度から取り組みを進めることが求められている。(日本財団 コミュニケーション部 益田美樹/SANKEI EXPRESS

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