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【にほんのものづくり物語】熊野 化粧筆
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多くのメイクアップアーティストやメイクブランドの支持を集める「熊野の化粧筆」(有限会社「瑞穂」提供) ≪伝統に培われた技を新しい発想に生かすと「ものづくり」の可能性が広がる≫
日本だけではなく世界の最高品質として、多くのメイクアップアーティストやメイクブランドの支持を集める「熊野の化粧筆」。その原点は日本の文化の一つである書道の筆づくりにありました。世界に誇る伝統工芸へと進化を遂げてきた影に、高度成長期の追い風と時代の波をつかんだ地域の変遷があります。
今回はそんなストーリーを探るため広島県熊野町で化粧筆づくりに取り組む尺田さんを訪ねました。
国内シェア90%を誇る化粧筆の産地、広島県熊野町。筆づくりの歴史は今から約180年前、江戸時代後期から始まりました。農閑期に出稼ぎに出た熊野の人々は、帰省時に奈良や和歌山で仕入れた筆や墨の行商をしながら家路をたどりました。その繰り返しの中で、自ら筆づくりを学び技術を村に伝える人が現れ、その熱意と村の人々の努力により、筆づくりが熊野の地に根付いたといいます。明治時代に入り、学校制度ができたことで筆の需要が高まり、地域を支える産業として大きく発展しました。1960年ごろからの高度成長期には子供の増加とともに好景気を迎えます。
新しいファッションやメイクアップ、欧米文化があふれる世の中で、筆づくりの新たな道を拓(ひら)いたのが「化粧筆」でした。大阪の問屋を経由し、大手化粧品メーカーから1万5000人の美容部員が使う化粧筆をという大量注文が。さらに商社からは対米向けの新しい販路も舞い込んできたのです。時代の波に乗り、熊野町は化粧筆に本格的に乗り出すことになったのです。
高校を卒業した尺田さんが筆の仕事を始めたのはちょうどその頃でした。70年代には下請けで月100万本の仕事をこなすことも。広島のベッドタウンとして激増した主婦層や周辺地域の農閑期の女性たちも、パートや内職として生産を助け、町の約90%が筆の仕事に関わり需要を満たしていきました。
75年、書筆の分野で熊野は「伝統的工芸品」の認定を受けます。「質より量」を求められた化粧筆も、より安い価格の韓国、中国に生産が移行したことで転機を向かえ、大量生産から「良質なもの」を求める、次の時代へと歩みを進めることになります。「より美しく、より自然な仕上がり」を求めるメイクアップアーティストの厳しい要求に応えるため、対話を重ね、使い心地を試し、きめ細やかな作業のもとにノウハウを積み重ねて、熊野の高品質な化粧筆づくりの基盤が築かれました。
先代から筆づくりのノウハウを受け継いだ尺田さんは80年に「瑞穂」を設立。毛の種類の選定から、仕入れ先、穂先のボリューム感など、より良いものづくりを実現させる一貫生産を始めました。筆づくりで特にこだわるのは逆毛やすれ毛を取り除く作業。毛先を切りそろえるのではなく、ちょっとした手触りの違和感を指先に感じて毛をはじいていく作業はまさに熟練の技。筆の種類によって形が異なる道具類も全て手づくり。全行程に行き届く細やかな配慮に、極上の肌触りで美しいメイクアップを仕上げる秘密が隠されているのです。現在、「瑞穂」ではさまざまなOEM(相手先ブランドによる生産)を受注していますが、OEMは使い手の要望に合わせた提案と実現が不可欠。そこには高い技術力とともに対話力や発想力も不可欠な要素です。
伝統を未来へつなげるために、行政の応援を受けて8年前から始まった「筆職人後継者育成事業」は、3カ月の短期養成講座終了後、熊野筆の事業所で働くことができる仕組みです。尺田さんの会社は中でも就業率が高いと評判に。若い発想を取り入れようと広島市立大学漆工芸科の学生とコラボレーションで製作した斬新な筆は、海外からの評価も得ています。「使う人が嬉(うれ)しい筆」をつくるためには、つくる人も使い手を想像しさまざまなチャレンジを続けること。それが働く人たちの気持ちを引き出し、技術の継承、新しい世界を切り拓く産業の発展につながっていくのではないでしょうか。(SANKEI EXPRESS)
11年、MBシリーズ「GOOD DESIGN AWARD 2011」受賞。14年、中小企業IT経営力大賞、全国商工会連合会会長賞受賞。15年、経済産業省「がんばる中小企業・小規模事業者300社」の選定を受ける。
問い合わせ先:有限会社 瑞穂 〒731-4213 広島県安芸郡熊野町萩原2の7の35 (電)082・854・0432、(FAX)082・854・9182 www.mizuho-brush.com
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