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【辛酸なめ子の映画妄想記】ありそうな展開ながらも感動

 自分探しのため旅に出る人は今も昔もあとを断ちません。しかし探し求めていたものは結局、自宅の裏庭にある(「オズの魔法使い」より)…というケースもあるのです。この「しあわせはどこにある」(ピーター・チェルソム監督)の主人公である精神科医のヘクター(サイモン・ペッグ)は、仕事や私生活に行き詰まり、ある時、急にすべてを投げ出し、幸せを探す旅に行くことを決意。精神科医として充実した日々を送っているように見えながら、カウンセリングではろくに患者と向き合わず、質問に質問で返したり、適当な受け答えをするだけ。悩みを抱えた患者から負のオーラをうつされたのか、口角が下がり悲壮感が漂う人相になっています。

 必要なのは金? 女?

 「脇が臭い」「乳首が感じない」といった些細(ささい)な悩みまで相談され、苛立(いらだ)ちが募るヘクター。患者の霊能者には「人生疲れ果ててるわ」と言い当てられる始末です。そして製薬会社の営業として働く彼女のクララ(ロザムンド・パイク)とも不穏な気配。クララは靴下の中に、元カノとヘクターのラブラブ写真を見つけてしまいます。

 また、趣味のラジコン仲間には、ラジコン飛行機をぶつけられて喧嘩(けんか)になったり…と殺伐とした日々。とはいえ、思い立ったらすぐに旅立てるのは高収入のたまものです。やはり幸せ探しに持つべきものは…という思いがよぎりました。

 そんなヘクターが最初に幸せ探しの旅で訪れたのは中国でした。今、アジアで最も活気があり、エキゾチックな体験ができそうなスポットです(最近、海外の映画の日本離れには一抹の寂しさを覚えますが…)。

 ヘクターは飛行機で隣の席になった裕福なビジネスマンと仲良くなり、一緒に夜遊びに連れて行ってもらいます。ビジネスマンの彼が授けた幸せへのアドバイスは「引退するな」。ギラギラし続けろ! という意味でしょうか。クラブで女をはべらせるビジネスマンを見て、「幸せは金持ちになったり、偉くなること」と、幸せ手帳にメモするヘクター。中国人美女のイン・リーに「逆ナン」され、「幸せとは一度に複数の女性を愛すること」と、序盤、幸せの方向性がおかしなことに…。ちなみにイン・リーはルーシー・リュー(46)にそっくりで、アメリカ映画で好まれるステレオタイプな中国系美人なのかもしれません。

 ステレオタイプといえば、この映画のストーリー展開もわりとわかりやすい展開です。次に訪れたのはチベット。やはり「ダライ・ラマ好き」な知識人層はこの地を選ぶのでしょう。そこで出会った僧侶に幸せについて尋ねたら、「何を探すかより、何を避けているかが重要」「もっと上を目指せ」と深い言葉を賜(たまわ)ります。

 純粋な子供に教えられ

 そして次はアフリカへ。ボロボロで揺れまくる飛行機の中では隣のアフリカ人女性に「この飛行機、古いでしょ。落ちてないって証拠よ」と言われ、少し安心するヘクター。経済的には恵まれていないけれど、物事を別の角度から見て幸せだと思えるタフなアフリカ人の考え方にハッとさせられます。

 アフリカでは医者の旧友を尋ねて診療所を手伝うヘクター。病気だけれど笑顔の少年に、悲愴(ひそう)な眉間のしわと、下がった口角を指摘されます。アフリカの貧しくて純粋な子供に幸せを教えられる-なんてありそうな展開だと思いながらも、表層的に心を動かし続けるうちに、いつしか心の底に働き、感動してしまいます。弱い圧だけれど、的確なマッサージを受けているようです。

 主人公は、こんな風に各地で人と出会い仲良くなるうちに、幸せについての考えが深まってゆき、人間的にも成長。アメリカ人の幸せの条件とは、友達がたくさんいること、なのかもしれません。東京・シネマライズなどで公開中。(SANKEI EXPRESS

 ■しんさん・なめこ 1974年、東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。近著は「辛酸なめ子のつぶやきデトックス」(宝島社)、「セレブの黙示録」(朝日新聞社)、「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎)、「霊的探訪」(角川書店)など。

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