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太宰に救われ「読書芸人」開花 芥川賞に又吉さん、羽田さん
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芥川賞の受賞が決まり記念撮影に応じる又吉直樹さん=2015年7月16日午後、東京都千代田区の帝国ホテル(鴨川一也撮影) 第153回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の選考会が16日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は又吉直樹さん(35)の「火花」(文学界2月号)と、羽田(はだ)圭介さん(29)の「スクラップ・アンド・ビルド」(文学界3月号)、直木賞は東山彰良(ひがしやま・あきら)さん(46)の「流(りゅう)」(講談社)に決まった。
芥川賞に決まったお笑い芸人の又吉さんは今年1月、自身初の純文学作品となる「火花」を文芸誌に発表。3月に発行された単行本は64万部に達した。
4回目の候補だった羽田さんは東京都生まれ。2003年に「黒冷水」で文芸賞を受賞し、デビュー。受賞作は、20代後半の失業青年が痴呆が始まった高齢の祖父の介護や再就職活動を通じ、精神的に成長していく姿を描いた。
芥川賞選考委員の山田詠美さんは「火花」を「どうしても書かざるを得なかった切実なものが迫ってくる。一行一行に人生的なコストがかかっている」と評価。「スクラップ-」については「新しい形のホームドラマの登場。読後感も良かった」と話した。
直木賞を射止めた東山さんは台湾生まれ。9歳で日本に移り、03年にデビュー。受賞作は、1975年の台北で大陸出身の祖父を何者かに殺された17歳の主人公が祖父の死の真相を追う青春小説。
直木賞選考委員の北方謙三さんは「欠点のない青春小説。根底から力がある20年に1度の傑作」と絶賛した。贈呈式は8月下旬、東京都内で開かれる。賞金は各100万円。
「ちっこい劇場での完結したネタのつもりが実は球場だった感じ(笑)。『どんなもんか読んだろ』って雰囲気が伝わる」。上半期の話題をさらった自身初の純文学作品「火花」で又吉さんは芥川賞を射止めた。
受賞作は、天才肌の先輩芸人との濃密な日々を、彼に私淑する後輩芸人の目から描く。夜通し飲み歩く先輩・後輩の独特な関係、つかみどころのない世間の反応、笑いの神髄と生きる意味…。芸人生活での実感を、ユーモラスで切ない登場人物に託してぶつけた。「世の中の流れを読んで立ち回れる人もいればそうできん人もいる。この世界で、主役って、ほんまに売れたやつだけなん?って思うんです。今の僕から見た人間を丁寧に描きたかった」
大阪府寝屋川市生まれ。ドアノブをなめたり、おかしなリズムで階段をのぼったり…。中学時代、そんなとっぴな行動で周囲を笑わせ、姉に「直樹って不思議ちゃんなん?」といぶかられた。建前と本音のはざまで自分を見失いかけたとき、救いの手を差しのべてくれたのが太宰治らの文学作品だった。「本の中には変な行動するやつがいっぱいおって、自分が異常ではないと気づけたんです」
読破した本は2000冊を超え、携帯電話の待ち受け画面も太宰の写真。綾部祐二さんとのコンビ「ピース」で活躍する一方、“読書芸人”と呼ばれ、推薦文を寄せた本は部数が跳ね上がるほどの影響力を持つ。
同居する芸人仲間が寝静まる深夜から早朝にかけてパソコンに向かう。「器用じゃないけれど今まで通り芸人をやりながら…」。いまや次作が最も待たれる作家の一人だ。(海老沢類/SANKEI EXPRESS)