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【新国立競技場】「白紙」 五輪へ綱渡り 首相表明 コンペからやり直しに
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まだほとんど更地の状態である新国立競技場の建設予定現場。東京五輪開催決定から1年10カ月あまりの時間的ロスは大きく、完成が五輪に間に合うかどうかは、ギリギリの時間との戦いになる=2015年7月17日、東京都新宿区(ロイター) 安倍晋三首相(60)は17日、2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設計画見直しを正式表明し、下村博文(しもむら・はくぶん)文部科学相(61)と遠藤利明五輪相(65)に新たな計画の作成に着手するよう指示した。東京五輪大会組織委員会会長の森喜朗(よしろう)元首相(78)、下村、遠藤両氏と官邸で会談後、記者団に「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す。そう決断した」と語った。今後は総工費やデザインもさることながら、競技場がいつ完成するかが大きな焦点となるが、綱渡りの「時間との戦い」になるのは必至だ。
新国立競技場の現行計画は「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大な鋼鉄製アーチが屋根を支える特殊な構造。このため総工費が当初計画よりも2倍近い2520億円に膨らんだことから、批判が強まっていた。
安倍首相は計画について「国民やアスリートから大きな批判があった。このままではみんなで祝福できる大会にすることは困難だと判断した」と説明。「1カ月ほど前から見直せないか検討を進めてきた。五輪までに間違いなく完成できると確信したので決断した」とも明かした。また、森氏に見直しの了解も得たとし「できるだけコストを抑制し、現実的にベストな計画をつくる」と表明した。
政府関係者によると、総工費を1800億円程度に縮減することを目指す。
これを受け、菅義偉(すが・よしひで)官房長官(66)は17日の記者会見で「秋口には新しい整備計画をつくる。その中に総工費の上限が含まれる」と述べた。下村氏も17日、記者団に「コンペをやり直す。半年以内にデザインを決め、設計から50カ月強の20年春の完成を目指す」と述べた。19年9、10月に行われるラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の会場として新国立競技場は使用できなくなる見通しだ。
一方、現行計画をデザインしたイラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏(64)=英国在住=らへの損害賠償や違約金に関し、菅氏は会見で「適切に対応する必要がある」と述べた。下村氏の責任問題については否定した。
東京五輪の開幕は20年7月24日。その本番前には各競技会場でテスト大会が実施される。これまで、文科省は設計を1からやり直した場合61カ月(5年1カ月)かかるとして、計画の変更を拒んできた経緯がある。安倍首相は五輪までの完成は可能と断定したが、本当に間に合うのか、不透明な部分は多い。
破棄される現計画は巨大な2本のアーチなど工事の難しさもあったが、国際コンペに4カ月、設計に2年をかけ、着工から完成まで44カ月を見込んでいた。国内最大の収容人数(約7万2000人)を誇る日産スタジアム(横浜市)も、設計に2年2カ月、施工に45カ月かかった。新計画が時間との戦いになるのは間違いない。
また、大会組織委員会が13年に国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルによると、新国立競技場では19年11~12月にサッカー、20年2~4月に陸上のテスト大会が予定されている。これらの実施はもはや不可能に近く、大会準備に大きな影響を及ぼしかねないと懸念されている。
後利用の問題もある。屋根や可動席のない構造となれば、五輪後に収益性の高いコンサートなどが開けず、採算に頭を悩ませることになる。計画をゼロベースで見直すと決めた以上、これらの課題をすべてクリアする必要があるが、ハードルは相当高い。しかし、そうでなければ「皆さんに祝福される大会」(安倍首相)にはなりえない。(SANKEI EXPRESS)