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【まぜこぜエクスプレス】Vol.56 「音を見る」広がるイメージ ブラインドサッカー日本代表 加藤健人さん
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サッカーコートで目立つよう明るい茶色に髪の毛を染めたというカトケン(加藤健一)さん(左)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづる=2015年7月9日(tobojiさん撮影、撮影協力:Turandot臥龍居) 日本でも最近、注目度が高まりつつあるブラインドサッカー。アイマスクを着用し視覚を遮断した状態で、転がると音の鳴るボールを使ってプレーするサッカー競技だ。フットサルのルールをベースにしており、パラリンピックの公式種目にもなっている。ブラインドサッカー日本代表選手のカトケンさんこと加藤健人さんに話を聞いた。
Jリーグに憧れるサッカー少年だったというカトケンさんが、視力の低下に気づいたのは18歳、高校3年生のとき。徐々に視力が低下していくレーベル病という遺伝性視神経症が原因だった。彼は「その頃の記憶がほとんどない」という。「学校も休みがちになり、しばらくひきこもっていました。まわりも急に障がい者になってしまった僕にどう接していいのかわからなくて、困っていたんじゃないかと思います」
将来どうしたらいいのかもわからず途方にくれていた彼の人生を変えたのが、両親がネットで見つけてきたブラインドサッカーとの出合いだった。「最初は音だけでボールがどこにあるのかを探すのが難しくて、見えていたらもっとできるのに…という葛藤があった」というカトケンさんだが、今や日本を代表するブラインドサッカー選手に。
サッカーグラウンドでボールを追う姿は、全くの別人。アイマスクをしているので、わずかに感じる光も遮断されている。それなのに、全速力で走り、ドリブルし、相手をかわし、シュートを打つ。初めて観戦する人は必ずといっていいほど「え! 本当に見えてないの?」「うそ。すごい!」と驚く。それほどスピーディーでパワフル。とてもカッコいい。
アクティブにみえるカトケンさんだが、困っていることもあるという。「初めての場所に行くのは不便。駅まで行けても、改札から先がどうしていいかわからない。バリアフリーといってもまだまだで障害物も多い」
彼が初めて訪れる場所で歩く姿は、やはり見えない人だ。白杖で前を確かめながら慎重に進む。もしくは、誰かの腕を持ち「右へ3歩。段差あります」とサポートしてもらう。「困っているとき、『すいません』と声をかけても立ち止まってくれないことがある。『お手伝いしましょうか』と声をかけてもらうことも少ないんです」とカトケンさん。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、視覚障がい者が歩きやすい街を実現するためには、ソフト面でもハード面でもまだまだ課題がありそうだ。
Get in touchのイベントで、カトケンさんがろう者と2人1組でチラシを配布したことがあった。彼はろう者の手話や歩いて来る人が見えないし、ろう者は彼の声も聞こえない、話せない。いったいどうするのかと思ったら、実にユニークだった。人がどちらから来ているのか、ろう者が彼の肩をたたいたりして合図をする。彼はその人の足音を聞いて立ち止まってくれそうかどうか判断しながら、イベントの趣旨を説明し、ろう者がチラシを渡す。「初めはどうしていいのかわからなかったけど、自然に役割分担ができていましたね」とカトケンさんは笑う。ろう者の手のひらには「タッチしませんか」の文字。歩いてきた人はろう者とハイタッチし、カトケンさんと握手する。そして、3人とも笑顔。工夫と配慮で何とかなるものだ。まぜこぜの社会も夢じゃない。
ブラインドサッカーでも、健常者と視覚障がい者がチームをつくる。見えない選手の中で、キーパーは見える人や少し見える人。協会やチームのマネジャーも見える人。見えない人と見える人との「声」と「音」のコミュニケーションで成立するスポーツなのだ。「日本のブラインドサッカーには健常者も参加できるので、まぜこぜのキッカケになってほしい。体験すると見えない人にどんなふうに声をかけていいかがわかってくると思う」。カトケンさんによると、ブラインドサッカーのコツは「音を見ること」。音を捉え、頭の中にイメージを浮かべ、動く。視力に頼らないことで、空気を読んだり、イメージする力が磨かれたりするのだろう。
9月2~7日には国立代々木競技場フットサルコートで「IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015」が開催される。ぜひたくさんの人に観戦してほしい。選手がボールの転がる音を聞き逃さないようにサポーターは無言で応援し、ゴールが決まれば歓声。そのメリハリも楽しんでもらいたい。(女優、一般社団法人「Get in touch」代表 東ちづる/SANKEI EXPRESS)