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CHE・ゲバラ39歳の夢は、いまどこにある? キューバとアメリカの国交は回復したけれど… 松岡正剛

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CHE・ゲバラ39歳の夢は、いまどこにある? キューバとアメリカの国交は回復したけれど… 松岡正剛

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【BOOKWARE】編集工学研究所所長、イシス編集学校校長の松岡正剛さん=9月14日、東京都千代田区の「丸善丸の内店内の松丸本舗」(大山実撮影)  【BOOKWARE】

 下のプロフィール欄に変な写真が載っている。これは名古屋の「番器珈琲」の小島伸吾君が贈ってくれた手製提灯で、ぼくがゲバラになっている。小島君はぼくの未詳倶楽部の会員で、イシス編集学校の師範もしている版画家で、実は珈琲ゲバラなのである。

 1964年の夏、ゲバラの合言葉「祖国か、死か」が発せられた。2年後には「数多くのベトナムを!」が世界に広まった。ぼくは早稲田にいて、この言葉が熱かった。ところがその翌年には、CIAは暗号「パピ600」を発して、ボリビア山中で苦戦していたゲバラを暗殺した。39歳だった。キューバでは国葬が営まれ、三一書房がすぐに『ゲリラ戦争』と『ゲバラ日記』を刊行した。むさぼり読んだ。

 ゲバラは喘息持ちのアルゼンチーナで、オートバイ乗りである。快著『モーターサイクル・ダイアリーズ』はロバート・レッドフォードが映画化した。ゲバラは医者を志した革命家であり、葉巻を愛した理想主義者でもあった。「女が好きになれないなら男をやめる、革命ができなくなったら革命家をやめる」と言っていた。

 ニコンS2を片手にトヨタの四輪駆動ジープでボリビアに入り、そこで死んだ。サルトルは「20世紀で最も完璧な男」と言い、ジョン・レノンは「世界で一番かっこいい男」と褒め称え、カストロは「意志と道徳の巨人」と呼んだ。

 青年期はラグビーに熱中した。メキシコでカストロ兄弟と出会い、少人数でキューバ革命を敢行した。放浪を好み、行く先々で誰とも話しこんだ。各地でハンセン病患者と交流した。工業大臣や国立銀行総裁にも就任したが、サインは「CHE」だけ。チェは「おい」「お前」といった呼びかけ語だが、ゲバラは「お前のダチだよ」という意味で使った。

 ゲバラのゲリラ革命は、アジア・アフリカの第三世界が圧政に苦しむところを、山岳ゲリラ・砂漠ゲリラ・密林ゲリラが誘撃と遊撃を繰り返し、政権中枢を一気に奪取する。ベトコンの戦術にも似ているが、ゲバラは既存の軍事政権に近付いてその骨身を刳り貫く戦術に徹した。

 いま、中東ではアラブゲリラとイスラム過激派のテロが続行中である。巨大アメリカを叩くテロもあったが、無差別テロが横行する。ゲバラがいたら、そんなことにはしなかった。

 【KEY BOOK】「ゲリラ戦争」(エルネスト・チェ・ゲバラ著、五十間忠行訳/中公文庫、823円、在庫なし)

 ブエノスアイレスの医学生で、アレルギー研究をしていたゲバラが職業革命家に転じたのは、オートバイで南米各地を放浪するたびに出会う民衆と国家の現実に憤然としたからだ。ではどうするか。アメリカの帝国主義的な圧力を撥ねのけるには、民衆自身が立ち上がる戦術をもつべきだと確信したゲバラは、キューバで体得したゲリラ戦に活路を見いだした。

 【KEY BOOK】「ゲバラ日記」(チェ・ゲバラ著、高橋正訳/角川文庫、562円、在庫なし)

 キューバ革命後のゲバラがコンゴ、アルジェリア、ペルーなどをへて次の革命現場に選んだのはボリビアだ。日記は1966年からほぼ毎日、その克明な準備と逡巡と決断を綴る。2000メートルの山岳に分け入って壮絶な格闘をしつづけているのに、自分とチームの行動を10分おきに記録した。こんなことができるのは、革命という「集中の成就」に向かっているからだ。

 【KEY BOOK】「モーターサイクル・ダイアリーズ」(エルネスト・チェ・ゲバラ著、棚橋加奈江訳/角川文庫、637円)

 23歳のゲバラが1951年から翌年にかけ、アルゼンチン、チリ、ペルー、コロンビア、ベネズエラを7カ月かけてバイク旅行をした日記だ。ペルーでハンセン病療養所を見て、医学部を卒業することを決意した。バイク旅行記だが、冗漫がない。その眼は行く先々の社会の細部に突き刺さっている。その注意力はいまも斬新だ。

 【KEY BOOK】「エルネスト・チェ・ゲバラ伝(上下)」(パコ・イグナシオ・タイボII著、後藤政子訳/海風書房・現代書館、5076円)

 未公開資料を駆使したゲバラ伝の決定版。大著だが、ゲバラの一挙手一投足がその場の状況、人物、ゲリラ戦術の当否、微妙な喜怒哀楽とともに如実に伝わってくる。革命家の実像は後世にならないとわからないものだったのだが、ゲバラはその既存像を破った。いつもそこで葉巻を咥えてマテ茶を飲んでいる革命家なのだ。

 【KEY BOOK】「わが夫、チェ・ゲバラ」(アレイダ・マルチ著、後藤政子訳/朝日新聞出版、2052円、在庫なし)

 ゲバラはペルーからの地下亡命者イルダ・ガデアと結婚し、キューバ革命の中でアレイダ・マルチがゲバラの秘書になったあと、再婚した。それから半世紀、アレイダが沈黙を破って夫について書いた。アレイダは自分をドン・キホーテの思い姫であって、従士サンチョ・パンサでもあろうとすることに徹したらしい。ゲバラはキホーテか?(編集工学研究所所長・イシス編集学校校長 松岡正剛/SANKEI EXPRESS

 ■まつおか・せいごう 編集工学研究所所長・イシス編集学校校長。若いときから煙草を吸い続けている。煙草がないと考えることもできない。これまでもこれからも止める気はない。ここ数年はキャスター3ミリを1日に数箱ほど吸っているので、これまででざっと100万本は超えている。「松岡正剛千夜千冊」(http://1000ya.isis.ne.jp/

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