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エンターテインメントは救いになる 柳家花緑、大和悠河 舞台「南の島に雪が降る」

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エンターテインメントは救いになる 柳家花緑、大和悠河 舞台「南の島に雪が降る」

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加東大介を演じる柳家花緑(やなぎや・かろく)さん(右)と妻の京町みち代とオランダ人女性リリィの2役を演じる大和悠河(やまと・ゆうが)さん=2015年7月20日、東京都江東区(小野淳一撮影)  戦後70周年の夏、往年の名優、加東大介(1911~75年)の従軍手記「南の島に雪が降る」が相次いで舞台となる。ニューギニアで加東らが慰問劇団を結成した実話で、中日劇場の企画は柳家花緑(やなぎや・かろく、43)を主演に迎え、大和悠河(やまと・ゆうが、37)が共演する。2人は阪神大震災と東日本大震災の直後に行った公演が多くの人に喜ばれた経験を、戦地の舞台に重ね合わせて臨む。加東が生前に在籍した劇団前進座も上演、ともに平和の尊さを訴える。

 役柄とだぶる祖父の姿

 加東は太平洋戦争末期にニューギニアのマノクワリに赴く。激戦が続き、食糧も物資もなく仲間が死んでいくなか、三味線弾きや舞踊教師、喜劇俳優らと出会って演芸分隊を結成。苦労して衣装や小道具を作りジャングルに劇場も建てる。「瞼(まぶた)の母」などを上演。兵士たちはつかの間、故郷を思い、笑いと涙の中に希望を見いだした。手記は1961年に発表、同じ年に加東主演で映画化。森繁久弥(もりしげ・ひさや)や渥美清(あつみ・きよし)、伴淳三郎(ばん・じゅんざぶろう)ら当時のスターが総出演した。

 前進座の舞台が原作にほぼ忠実なのに対し、中日劇場版は加東(花緑)の妻の女優、京町みち代と、原作にはないオランダ人宣教師の娘リリィが登場、大和が2役を演じる。脚本と演出は中島淳彦。

 花緑は祖父の五代目柳家小さん(やなぎや・こさん、1915~2002年)から戦争体験を聞いた。召集された小さんは慰問で落語も披露、兵士たちを勇気づけたという逸話が加東の姿とだぶるという。花緑は「祖父は生前、加東さんと接点があったはず。聞いておけばよかった」と悔やむ。

 加東は出征前日、実姉の女優、沢村貞子(1908~96年)宅でみち代と日本舞踊「鶴亀」を披露した。「見事だった」と沢村が書き残したその舞を、花緑と大和は再現する。「行く方も待つ方もつらい。残っているその時のお二人の写真は、いろんなものがそぎ落とされた、決意したような表情。そんな夫婦のつながりを踊りで表現したい」と大和は言う。

 敵国から見た戦争

 戦地は常に死と隣り合わせで、誰もが日本の家族を思い、生きて帰りたいと考えたろう。だが加東は、一度だけあった内地帰還のチャンスを断念した。一緒に舞台に取り組む仲間たち、喜んでくれる戦友たちを、捨てては帰れないという思いからだ。「相当な葛藤があったはず。でも戦地で役目を全うしようという、正義感のある実直でまっすぐな人。その真面目さを出したい」と花緑は話す。

 リリィ(大和)はかつて父と一緒に日本に滞在していた設定。戦災で父を亡くし、ジャングルで加東(花緑)と出会う。日本の敵国だったオランダ側から見た戦争がリリィの視点で語られていく。

 どんな戦争でも犠牲になるのは兵士であり一般市民であり、敵も味方もない。「何のために戦うのか、誰か謝ってくれるのか、責任を取ってくれるのか」というリリィのせりふは、現代にも通じる。「一番核心をついている部分が、私が出ることで見えるはず」と大和は言う。

 作品に一貫して流れるのは、極限の状況下でエンターテインメントが与える力だ。宝塚歌劇団出身の大和は、1995年1月の阪神大震災直後の初舞台を、花緑は2011年3月の東日本大震災の直後に行った高座をそれぞれ思い出す。

 「『元気をもらった』とすごく喜ばれて。エンターテインメントは一番あとに回されがちだけれど、心の糧、救いになる絶対に必要なもの。戦地もきっと一緒だったと思う」と大和。深くうなずく花緑は「寝る、食べると同じくらい大切なんだ」と引き取った。(文:藤沢志穂子/撮影:小野淳一/SANKEI EXPRESS

 ≪今の若い人に見てほしい≫

 劇団前進座は今回、評伝劇で優れた手腕を見せる文学座の瀬戸口郁(かおる、51)が脚本を手掛け、同じく文学座の西川信廣(65)が演出する。

 加東を演じる嵐芳三郎(50)は、加東とは親戚にあたるだけに思いもひとしお。「悲惨な話だが、笑えたり、感動したりする場面もたくさんある。改めて平和の大切さを考えさせられた」と話す。さらに「どんな過酷な状況にあっても文化や芸能は必要なのだ、ということに共感できる作品です」と力を込める。

 瀬戸口は脚本化にあたり、膨大な資料に目を通した。「資料を読めば読むほど悲惨極まりない戦場。ほとんどの兵士が戦闘ではなく、飢え死にだったという極限状況で、必死の生を貫いた男たちの心意気のドラマ。中高年はもとより、今の若い人に見てほしい」

 演出の西川は「人として、日本人として、忘れてはいけないこと、それが先の戦争で起こったこと。遠い過去ではなく、近くで起こったことを再認識する機会にしたい。戦争を全く体験してない立場で、当時を追体験するのに演劇は一つの方法。また、戦場で演劇が人の心を癒やし、支え、生きる希望を与えていたことも知ってほしい」と、演劇の持つ力も強調した。(亀岡典子、飯塚友子/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 《中日劇場》 8月6~9日 東京:浅草公会堂。(問い合わせ)ジェイ・クリップ (電)03・3352・1616。名古屋、福岡、大阪で公演あり。

 《劇団前進座》 8月7~17日 東京:三越劇場。8月18日 東京:武蔵野市民文化会館。(問い合わせ)前進座チケット (電)0422・49・0300

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