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【花緑の「世界はまるで落語」】(34) 女ゴコロの分からなかった小学生
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モテモテだった小学生の僕と、通っていた当時の目白小学校=東京都豊島区(柳家花緑さん提供) ちょうど一週間後はバレンタインデーですね。あのイベントに皆さんはどんな「思い出」ありますか? いや、いきなり「思い出」とか言ってますけど、いま現在、その思い出を作ろうとしている人もいらっしゃるかもしれない。中には「この頃は義理チョコももらわないなぁ」とか、女性が自分のために買うチョコなんかもあるとかないとか…。
僕は、正直いってバレンタインデーと聞いても今は、心動かされることは一つもありません。ですが子供の頃、小学生の頃なんかは、もうドキドキするような、バレンタインデーに心をわしづかみされるような思いをしましたね。
あれは忘れもしない小学3年生。僕が女の子から初めてチョコをもらった記憶です。
朝、学校へ行くと、授業が始まる前のわずかな時間に「小林くんちょっと廊下に来て…」。本名が小林である私は、訳も分からず廊下へ出てみると別の女の子が「はい、これバレンタインのチョコ、あげる!」と手渡してくれたのです。
つまり先に僕を廊下へ呼び出しに来た女の子は、あげたい子の友達なんでしょう。それが5人も続いたんですよ、5人もです! もう自分でも何が起きているのかよく分からない、ポ~っとしちゃって、自分が女の子からもてるなんてそれまで思ってもみなかったことで、その時「あ~僕もててるんだ…」みたいな実感が後から感じてくる始末。
ですが、根がお調子者な私は廊下でもらって教室に入ったとたん「ヤッター! もらっちゃったぁ!」と、声高らかに言いながら教室へ。クラスの男子がみんな僕ともらったチョコに群がってくる。女の子が何のために、わざわざ廊下へ出て内緒で渡しているのかを全く理解していない。「そういうことが分かるには20年、足りませんでした」みたいな、ボーっとした男でした。
そんな女心を少しも感じられないので当然3月14日も平気でスルーしてしまい、僕にチョコをくれた女の子たちは、そのホワイトデーに何かを期待して待っていたかもしれない。はっきり言ってホワイトデーも知らなかった。誠に申し訳ありませんでした。百年の恋も一瞬で冷めたのか、何と次の年から中学を卒業するまでの6年間、ひとっつもチョコをもらったことがありません! 女心を踏みにじった私の行為の代償は大きく付きました。
それでも僕は毎年、バレンタインデーになるとクラスの女の子の誰かが僕にチョコをくれるかもしれないとドキドキしながら待っていたんです…勝手に。そして妄想します。モジモジしながら女の子が「小林くんコレ!」なんてチョコを手渡してくれる場面を。そしてもらえないもんだから家へ帰ってきて勝手に落ち込んだりしてる。
つまりビギナーズラックだったんですね。突然のモテキです。しかも振る舞いに失敗するという失態。よーし決めた! 今決めた! もし、未来にタイムマシンができたら、あの日に戻って自分に教えてあげよう。決して、はしゃがず女の子の内緒に付き合おう。そして、くれた女の子たちにホワイトデーをお返しする、ありがとうの言葉を添えて。5人の女の子から本気チョコをもらうことは、この先僕には訪れないだろう。
言ってみれば人生で最初で最後だった、突然に予告もなく、不意打ちのように訪れて、まるで満開の桜の木の下で5人の女の子たちから告白を受けながらの花見をしているような、心も体もポッカポカになった永遠の一瞬! 僕の心の桜は、あまりにも早くあっという間に散ってしまった。だから過去に想いをはせて5人のクラスメートに…、あの時はごめんなさい。そしてありがとう!(落語家 柳家花緑/SANKEI EXPRESS)