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歴史の荒波超えた伝統ビール ドイツ・ライプチヒ
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バイエリッシャー・バンホーフのゴーゼ・ビール。酸味があり、さわやかな味わいだ=2015年7月23日、ドイツ・ザクセン州ライプチヒ(宮下日出男撮影)
ビールの本場ドイツで「ゴーゼ」という、中世から伝わる伝統の地ビールが近年、注目されている。第二次世界大戦後の東西分断と統一という激しい時代の荒波の中で途絶えそうになることもあったが、地元民らの強い愛着が伝統を守ってきた。戦後70年、統一から25年の今夏、歴史の“酸味”が効いたビールで喉を潤すのも趣深い。
ベルリンから電車で約1時間半。ドイツ東部ライプチヒはバッハやメンデルスゾーンら有名な作曲家ゆかりの街として知られるほか、世界初の見本市が開催された歴史的な文化・経済都市だ。旧東独の民主化運動の主要な舞台ともなった。そんな街の特色に彩りを加えるもう一つの“顔”がゴーゼ・ビールだ。
ゴーゼは食塩やコリアンダーを加えたのが特徴で、「塩ビール」とも呼ばれる。各種資料によると、中部ハルツ地方の都市ゴスラーで生まれ、街を流れる小川に名前が由来する。10世紀には神聖ローマ帝国の皇帝オットー3世もその味をたたえたともいわれ、各地に普及。18世紀前半に伝わったライプチヒで大きな人気を博し、「ゴーゼの街」と呼ばれるまでになった。
戦後の工場の徴収や閉鎖のほか、旧東独体制下での物資不足のため、1950~60年代にはゴーゼはほとんどつくられなくなったが、80年代後半にその復興の動きが始まった。90年の東西ドイツ統一後、ビールづくりの材料を麦芽、ホップ、水、酵母に限定する法律などのため、旧東独の醸造所が存続の危機に遭う中も、ゴーゼは「伝統」を理由に法律適用の例外とされた。
今回足を運んだのはライプチヒ中心部から少し南方のレストラン「バイエリッシャー・バンホーフ」。敷地内に醸造所も備える店は2000年に開業し、ゴーゼの普及に大きな貢献を果たしている。
テーブルが並ぶ店内で、まず目についたのは巨大な銅色の容器。蓋を開くと、湯気が一気に立ち上り、ほのかな甘い香りが立ち込めた。容器内でぐつぐつ煮立っていたのは、ビールの原液。小麦、大麦の麦芽と水をあわせた後、ホップを加え、約1時間加熱しているところだった。原液はその後、地下の設備で冷却され、店の隣の倉庫内で貯蔵される。
バイエリッシャー・バンホーフのビール醸造責任者、マティアス・リヒターさん(39)によると、ゴーゼは乳酸発酵させているのも特徴。そのため味に若干の酸味も加わる。ただ、塩とコリアンダーを工程のどの時点で入れるのか尋ねると、「それは企業秘密です」とガードは固かった。
少し濁りつつも、明るい黄色のビールは口にふくむと、ほのかな酸っぱさとともに、爽やかな味が広がった。苦味が少ないため、ビールが苦手な人にも飲みやすいという。「いろいろな飲み方でも楽しめる」と、リヒターさんは薬草やラズベリーのシロップ、キュンメル酒を加えたゴーゼも用意してくれた。
ドイツでは近年、クラフトビールが流行中で、ゴーゼもその追い風に乗っているようだ。地ビールだけに小規模だが、バイエリッシャー・バンホーフの製造量は12年前から倍増し、現在は年間25万リットル。米国やイタリアにも輸出している。
ライプチヒのゴーゼは他にもある。バイエリッシャー・バンホーフのゴーゼは基本的にこの店のみでの取り扱いだが、1999年から製造されている「リッターグーツ・ゴーゼ」は世界的にも人気で、市内でも広く販売されている。
市中心部の小さな飲料店を訪れると、リッターグーツがケースに積まれ、壁にはポスターが飾られていた。土産に数本買い求めると、男性店主はうれしそうに語った。「1000年の歴史を持つゴーゼはわれわれの誇りだ」(宮下日出男、写真も/SANKEI EXPRESS)