
ヒットの秘訣を語る伊藤信吾社長【拡大】
「特濃ケンちゃん」「信吾港町」「男の3連チャン」…。スーパーの豆腐売り場を通ると、パッケージにインパクトが強い名前やイラストが描かれた商品を見たことがあるだろう。京都市中心部から車で約1時間離れた京都府南丹市に本社・工場がある「男前豆腐店」の商品たちだ。
◆当初は苦言も
「豆腐が1丁10円の特売品で売られているのはおかしい」
同社の伊藤信吾社長は、豆腐業界の常識に納得がいかなかった。多少の利益が出なければ、豆腐製造を続けることはできない。
「脱・価格破壊」へ。業界に疑問を投げかける形で発売したのが2003年、父が経営していた豆腐会社から発売した「男前豆腐」だった。価格は300円。二重底の容器を採用したことで、出荷から数日後に豆腐から水分が切れて固くなることから「水もしたたるいい豆腐(男)」という連想で名付けた。
ネーミングだけでなく、豆腐の製法も大豆の皮をむくという業界の常識外だった。豆腐は大豆の甘みが強まり、なめらかな味に仕上がった自信作だった。
しかし、デビュー当初からヒット商品だったわけではない。小売店のバイヤーから「汗臭そう」「名前を変えた方がいい」といった苦言も相次いだ。
そんな商品が売れるようになったのは05年。当時37歳の伊藤社長が独立・創業し、倒産した南丹市の豆腐工場を買い取った同年の夏、東京・二子玉川の高島屋出店をきっかけにテレビ局などのマスコミが「流行もの」として相次いで取り上げたためだ。
その後、大阪・梅田の阪神百貨店へ売り込みに行くと、バイヤーから「待ってました」という声があがり、伊藤社長は「これはいけるかもしれない」と商売の手応えをつかみ始めた。