他方、南ヨーロッパはアングロサクソン系に比較すると契約書のページ数が少ないなど、「緩さ」をあらかじめ設けながら合意する文化がある。しかし、輪郭を明確にして内側は遊ばせておくそれは、輪郭をあまりはっきりさせないことに力点を置く日本の「緩さ」とは異なる。
だから、日本の人に対してなぜ輪郭をはっきりさせる前に重箱の隅をつつくのだ?とヨーロッパ人はイラつくことがままある。
ヨーロッパのビジネスパーソンが確認を求める「プロジェクトの方向性」を日本の交渉相手は「抽象性の高い議論で現実的ではない」と考える。つまり輪郭は細部の集積だと日本サイドは考えている証拠だ。
以上を踏まえて最初のエピソードに戻るなら、ブリーフィングのポイントを日本のデザイナーは分かっていないから「無視するがごとくに」外すのだとも、くだんの社長は言いたいに違いない。
あるいはブリーフィングにある根拠となるロジックを言葉で切り崩せないから、デザイナーはブリーフィングを外すのかもしれない、とも想像している。
だが、日本のデザイナーはブリーフィングにおける「輪郭」と「細部の集積」の位置づけに認識差があるとさほど意識していないのだ。
即ち、一言でいえば「話が通じない」。しかも、お互いがそう思っている。