「高校生の頃、国連難民高等弁務官事務所にいた緒方貞子さんのようになりたかったのです」と語るのは、ロンドンを拠点に日本酒ソムリエとして活動する菊谷なつきさんだ。今年32歳になった。
彼女はロンドンの有名日本料理店で日本酒の専門家として経験を積んだ後、昨年より独立した。酒蔵の欧州におけるプロモーションと非日本人を中心とした人たちへの酒教育の2つを柱にしてビジネスをスタートした。
彼女のこれまでのストーリーを伺っていると、彼女の酒伝道師の情熱のありかが見えてくる。
日本の高校で飢餓問題などに関心をもちNPOで活動していた菊谷さんは、大学はアメリカを選んだ。当初、政治学を学んだが、自分の興味はもっと人寄りだと自覚した彼女は、環境学や社会学など事象を総合的に捉える分野に乗り換えた。「境界」というキーワードが彼女の頭にはあった。境界をどう超えるのか、そもそも境界をどうセットしなおすことができるのか。そういうテーマに関心が強かった。
しかし、卒業後もそのままNPO活動を続けることはなかった。
「もともと、お金儲けとかは忌み嫌っていたんですね。でも草の根から世の中を変えていく難しさを散々味わって、違ったアングルから社会に立ち向かいと思ったのです」
菊谷さんは、東京の人材開発コンサルタント会社の社員になった。始発・終電という猛烈な毎日が続いたが、大企業のトップとも話し合う機会があり刺激は多かった。クライアント企業の社員がどうモチベーションをもつかを日々考えた。