トランプ米大統領は矢継ぎ早に保護貿易主義的な通商政策を打ち出している。日本もその標的にされ、政府や産業界を当惑させているのだが、果たして1980年代のような日米通商摩擦が再来するのだろうか。筆者の答えはノーだ。
世界最大の債務国である米国が保護貿易主義のもとに、経済成長率の底上げ、雇用増進を達成しようというのは無理である。保護主義は金利高、ドル高を呼び、産業競争力も雇用も損なわれる。ただ、資本流入さえ確保できれば、金利の高騰、急激なドル高は避けられるかもしれない。
気になるのは中国の出方である。中国向けに報復関税をかけて米中貿易戦争という事態になれば、北京のほうは対抗手段として米国債の売却など米金融市場からの資金引き揚げに打って出る可能性がかなりある。何しろ、中国は日本と並ぶ最大の米国債保有国である。リーマン・ショック当時のブッシュ政権とその後のオバマ政権は北京に米国債買い増しを要請していた。
オバマ政権1期目のヒラリー・クリントン国務長官は米国債買い増しを北京に約束してもらう代わりに、中国の人権侵害批判を避けたし、オバマ政権は以来、中国の対米黒字やそれとともに進行する中国の軍拡に対し、黙認を通してきた。それほど、巨額の貿易黒字と外貨をバックにする中国の資金力に対し、ウォール街は弱く、ウォール街出身者が要職を占めるオバマ政権は弱腰にならざるを得なかった。