「三重スパイイスラム過激派を監視した男」【拡大】
ハセインが接したアルジェリア軍の諜報機関は冷酷で、目的のためには誘拐や殺人も厭(いと)わず、ハセインも用済みになったとき爆殺されかける。フランスの諜報機関は、スパイと何本もワインを開けながら意見を交わす人間的な面があるが、威信をかけた1998年のサッカーW杯フランス大会が無事終わると、テロ対策への関心を急速に失う。MI5は官僚的な組織で、水面下でハムザと結び付いていて、最後はハセインを捨て駒として過激派に差し出す。
本書で描かれるスパイの姿には、ジェームズ・ボンドのような格好よさは微塵(みじん)もない。あるのは命までも雇い主に握られる人間の悲哀と苦闘である。それだけに真実味と味わいがあり、同時に、現実の諜報活動の複雑さと真の怖さも思い知らされる。個人的には、焦げるように熱い太陽が照りつけるアルジェの白い街の描写を楽しんだ。(講談社・1800円+税)
評・黒木亮(作家)