□『インサイド・ザ・ストーン 石に秘められた造形の世界』山田英春著
■組成では説明できない美
ため息が出るほど美しい写真集だ。
石の中に浮かび上がる水平線や砂丘、樹木やコケや色とりどりの花、そして複雑で繊細なレースのような縞(しま)模様。なかにはサンゴ礁の海をのぞき込んだような模様もあれば、夕焼けに染まる仏教寺院の姿も見える。
これって本当に石なの?
思わず目を疑いたくなるような造形の妙。石に興味のない人でも、これらの写真を見て驚かない人はいないだろう。
石が描く不思議な絵のことは、古くから知られていた。哲学者のロジェ・カイヨワ、美術史家のユルジス・バルトルシャイティス、日本でも澁澤龍彦など、自然石に描かれた絵に魅了された先達は少なくない。
ところが、科学の図鑑で石を調べても、そこには凝灰(ぎょうかい)岩だの花崗(かこう)岩だの玄武岩といった組成別の分類が載っているだけで、石の色や模様のバラエティーに触れたものはほとんどない。まして、石の描く不思議な絵について紹介しているものなどまず見当たらない。
なんともったいないことだろう。
私も石ころが好きで、旅先などでたまに拾ってくるのだが、拾う基準は、色や形、模様、手触りなどで、それが何岩と呼ばれる石か、などと考えたことはない。石への興味は、美的な印象から始まるのが普通ではないだろうか。